第74話 愛されたかった
長い沈黙が流れた。
玲は膝の上で両手を強く握り締めている。
その手は、小さく震えていた。
「私は」
震える声で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「本当は」
「両親を殺したくなかった」
恒一は何も言わない。
玲は俯いたまま続ける。
「ただ」
「愛されたかった」
「抱っこしてほしかった」
「頭を撫でてほしかった」
「頑張ったなって」
「褒めてもらいたかった」
涙が一粒、膝へ落ちる。
「普通の子どもになりたかった」
「学校へ行って」
「友達と遊んで」
「家に帰ったら」
「おかえりって」
「言ってほしかった」
玲は唇を強く噛み締める。
「今なら分かる」
声が震える。
「あの時」
「もっと話せばよかった」
「もっと甘えればよかった」
「怖いって言えばよかった」
「苦しいって言えばよかった」
涙が止まらない。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
誰に向けた謝罪なのか。
父と母へなのか。
幼い自分自身へなのか。
玲にも分からなかった。
ただ、胸の奥に何年も閉じ込めていた感情だけが、溢れ続ける。
恒一は何も言わない。
励ましの言葉も。
慰めの言葉も。
何も口にしなかった。
ただ静かに玲の隣へ歩み寄り、その小さな身体を優しく抱き締める。
一瞬だけ驚いた玲は、次の瞬間、その胸へ顔を埋めた。
「うっ……」
「うぁ……」
堰を切ったように涙が溢れる。
嗚咽が止まらない。
十四年間。
一度も流せなかった涙だった。
恒一は玲の頭を、何も言わず優しく撫で続ける。
玲は初めて。
人を殺すための兵器ではなく。
十四歳の、一人の子どもとして。
声を上げて泣いた。




