第75話 甘え
冬埜家の話を終えてから。
玲は少しずつ変わっていった。
まず、命令をしなくなった。
「ゲームやるぞ」
ではなく。
「ゲームやるか?」
「買い物行け」
ではなく。
「一緒に行くか?」
そんな小さな変化だった。
そして。
恒一の隣へ座ることが増えた。
テレビを見る時も。
本を読む時も。
自然と肩が触れるくらいの距離へ来る。
休日。
二人でゲームをする。
「また負けた」
「こういち」
「もう一回」
「はいはい」
夕方。
二人で夕飯を作る。
「味見して」
「ちょっと薄いかな」
「そうか」
「じゃあ少し足す」
そんな何気ない時間が増えていく。
恒一は包丁を動かしながら、小さく笑った。
「玲」
「何だ?」
「年相応になったな」
玲はきょとんと首を傾げる。
「そうか?」
「ああ」
「前より、十四歳の女の子らしくなった」
玲は少し考えたあと、小さく笑う。
「そうなら」
「こういちのせいだな」
「俺か?」
「ああ」
「普通を教えたのは」
「こういちだから」
恒一は照れくさそうに笑った。
「俺は何もしてないよ」
「してる」
玲はそう言うと、当たり前のように恒一の隣へ座った。
肩が少し触れる。
少しだけ黙り込んだあと、玲がぽつりと呟く。
「こういち」
「ん?」
「頭」
「撫でろ」
恒一は思わず吹き出した。
「まだ命令するのか」
玲は少しだけ考え込み、小さく言い直す。
「……撫でて」
その一言に、恒一は優しく微笑んだ。
「はいはい」
ぽん、と玲の頭へ手を乗せる。
ゆっくりと優しく撫でると、玲は気持ち良さそうに目を細めた。
「どうだ?」
「……安心する」
そう呟くと、玲は恒一の肩へそっと寄り掛かる。
もう離れようとはしなかった。
そこが今の玲にとって、一番安心できる場所だった。




