第72話 十歳
玲は静かに語り始めた。
「十歳だった」
恒一は何も言わない。
「私は」
「父と母を超えた」
玲は自分の手を見つめる。
「冬埜家の特性を」
「私は強く受け継ぎすぎた」
「力も」
「反射神経も」
「治癒力も」
「全部」
「普通じゃなかった」
「年齢なんて」
「関係なかった」
静かな声が続く。
「父と母の誤算は」
「私の成長が」
「予想より早すぎたことだった」
「もっと時間が掛かると思ってたんだろう」
玲は小さく息を吐く。
「私の感情が」
「壊れる前に」
「二人を超えてしまった」
恒一は息を呑んだ。
「その日から」
「父と母は変わった」
「私を見る目が」
「怖かった」
「恨んでいるんじゃないか」
「下剋上を狙っているんじゃないか」
「寝ている間に殺されるんじゃないか」
疑心暗鬼だった。
親子ではない。
当主と、次の当主候補。
それが冬埜家だった。
「そして」
「ある夜」
玲はゆっくり目を閉じた。
「眠っている私を」
「父と母が殺しに来た」
部屋の空気が張り詰める。
「気配で目が覚めた」
「考える前に」
「身体が動いた」
玲は淡々と続ける。
「自己防衛だった」
「気付いた時には」
「父も」
「母も」
「死んでいた」
玲の声は震えなかった。
あまりにも静かだった。
だからこそ、その出来事がどれほど深く心に沈んでいるのかが伝わってくる。
「私は」
「親を殺したかったわけじゃない」
「生きたかっただけだ」
恒一は何も言えなかった。
十歳の少女が選んだのではない。
選ばされただけだった。
生きるために。
父と母を、自らの手で殺すしかなかったのだから。




