第71話 褒めて
玲は少しだけ寂しそうに笑った。
「父は」
「十七代目当主だった」
「母も強かった」
「物心ついた時から」
「二人とも厳しかった」
恒一は静かに耳を傾ける。
「私は」
「強くなれば」
「褒めてもらえると思ってた」
玲は自分の膝を見つめる。
「もっと強くなれば」
「頭を撫でてもらえる」
「抱き締めてもらえる」
「よく頑張ったって」
「言ってもらえる」
少しだけ笑う。
「だから」
「頑張った」
「毎日」
「痛くても」
「苦しくても」
「泣きたくても」
「全部我慢した」
「でも」
玲はゆっくりと首を横へ振る。
「返ってくる言葉は」
「『まだ足りない』」
「それだけだった」
部屋に静かな沈黙が流れる。
玲は少し考えるように目を伏せる。
「今思えば」
「父も母も」
「私を憎んでいたわけじゃなかったのかもしれない」
恒一は玲を見る。
「獄蓮会に逆らうには」
「誰よりも強くならないと生き残れなかった」
「だから」
「私を強くしようとした」
「ただ」
玲は寂しそうに笑う。
「やり方を知らなかった」
「褒め方も」
「愛し方も」
「きっと知らなかった」
恒一は何も言えなかった。
玲の両親もまた、獄蓮会という歪んだ世界で育ち、その価値観しか知らずに生きてきたのかもしれない。
だから娘へ与えられたのは、愛情ではなく鍛錬だった。
玲はぽつりと呟く。
「それでも」
「一度くらい」
「頑張ったなって」
「頭を撫でてほしかった」
その小さな願いは、歴代最強と呼ばれた少女には、最後まで叶わなかった。




