第65話 痛み
恒一は静かに尋ねた。
「貫手以外にも、そんな修行があったのか?」
「ああ」
玲は頷く。
「拳」
「肘」
「脛」
「肩」
「身体中だ」
「硬い物へ」
「毎日叩き付ける」
「痛みに慣れるためか?」
「違う」
「神経を鈍らせるためだ」
玲は淡々と話す。
「痣になる」
「骨が折れる」
「治療する」
「翌日また叩く」
「それの繰り返しだ」
恒一は苦しそうな顔をした。
「痛いって言ったら?」
「回数が増えた」
「だから誰も言わない」
「泣いたら?」
「もっと増える」
「逃げたら?」
「終わるまで帰れない」
静かな沈黙が流れる。
玲は小さく笑った。
「でも」
「これも貫手の修行と一緒だ」
「私が痛いことより」
「分家のお兄ちゃんや、お姉ちゃんたちが」
「苦しんで」
「泣いて」
「叫んでる姿を見る方が」
「ずっと辛かった」
玲は目を伏せる。
「みんな」
「歯を食いしばって耐えてた」
「痛いって叫ぶ人もいた」
「泣きながら修行する人もいた」
「でも」
「誰も助けられない」
「私も」
「何もできなかった」
玲は自分の拳を見つめる。
「だから」
「早く終わってほしいって」
「毎日それだけ考えてた」
恒一は何も言わず、玲の話を聞いていた。
玲の心に残っている傷は、自分が受けた痛みだけではない。
大切な人たちが苦しみ続ける姿を、何年も見続けた記憶だった。




