第60話 鎖
恒一は少し考え込み、口を開いた。
「一つ分からないことがある」
「何だ?」
「玲は歴代最強なんだろ?」
「ああ」
「冬埜家にも強い人が大勢いる」
「それなら」
「獄蓮会なんて潰せばいいじゃないか」
玲は静かに首を横へ振った。
「無理だ」
「どうしてだ?」
玲はゆっくりと話し始める。
「何百年も前」
「獄蓮会は、自分たちに都合のいい道具を作るために冬埜家を作った」
恒一は眉をひそめた。
「作った?」
「ああ」
「最初から」
「人を殺すためだけの一族として育てられた」
「私たちは」
「兵器だ」
玲は自分の手を見つめる。
「普通の教育は受けない」
「学校へも行かない」
「教えられるのは暗殺だけ」
「殺し方」
「隠れ方」
「命令への従い方」
「外の世界なんて知らない」
「洗脳もある」
「必要なら薬も使う」
「幼い頃から、それが当たり前になる」
恒一は拳を握り締める。
「そんな……」
「でも」
玲は静かに続けた。
「勘違いされやすいけど」
「冬埜家の人間が全員、私みたいに強いわけじゃない」
「そうなのか?」
「ああ」
「一般人より少し強い程度の者も多い」
「訓練に耐えられない者もいる」
「病弱な者もいる」
「才能がない者もいる」
「そういう人は?」
「無理には鍛えない」
玲は淡々と答える。
「獄蓮会も、人間兵器になれない者を無理に育てることはない」
「その代わり」
一拍置く。
「人質になる」
部屋の空気が重くなる。
「親」
「兄弟」
「親戚」
「仲間」
「大切な人」
「そういう人たちが、獄蓮会の支配に利用される」
恒一は息を呑んだ。
「逆らえば……」
「ああ」
「殺される」
玲はどこか諦めたように微笑む。
「だから誰も逆らえない」
「冬埜家は強い」
「でも」
「戦う前から負けてる」
少しだけ沈黙が流れる。
やがて玲は、小さく息を吐いた。
「でも」
「私には守るものがいなかった」
恒一は玲を見る。
「親はいない」
「大切な人もいない」
「人質にされる相手が、誰もいなかった」
玲は静かに笑う。
「だから逃げた」
「獄蓮会の言いなりになるのは嫌だった」
「命令されるのも嫌だった」
「自由になりたかった」
玲はゆっくりと恒一へ視線を向ける。
「だから」
「こういちの家へ来た」
恒一は何も言わなかった。
あの日、玲は自分を殺すためにやって来た。
けれど今、目の前にいる玲は違う。
命令に従う道具ではなく。
自分の意思で未来を選ぼうとしている、一人の少女だった。




