第58話 冬埜家
休日。
昼食を終えた二人は、温かいお茶を飲みながら静かな時間を過ごしていた。
玲は湯呑みを見つめたまま、小さく口を開く。
「なあ」
「何だ?」
「私のこと」
「ちゃんと話しておこうと思う」
恒一は静かに頷いた。
「無理して話さなくてもいい」
玲は首を横へ振る。
「違う」
「こういちには知っていてほしい」
少しだけ息を吐く。
「私は」
「冬埜家の生まれだ」
「冬埜家?」
「ああ」
「殺し屋御三家の一つ」
「天音家」
「市之瀬家」
「そして冬埜家」
「昔から裏社会で恐れられてきた殺し屋一族だ」
玲は続ける。
「冬埜家は、本家と複数の分家で構成されている」
「でも」
「当主は世襲じゃない」
恒一は驚いた。
「違うのか?」
「ああ」
「一族で最も強い者だけが当主になれる」
「親でも」
「子でも」
「関係ない」
「新しい当主が生まれば、その者の一族が次の本家になる」
恒一は言葉を失う。
「家族なのに……」
玲は静かに頷いた。
「家族より」
「強さが優先される」
「それが冬埜家だ」
少しだけ間を置く。
「でも」
「冬埜家だけじゃない」
恒一は玲を見る。
「何百年も前から」
「獄蓮会の祖となる組織が存在していた」
「冬埜家は、代々その傘下にあった」
「傘下?」
「ああ」
「冬埜家は代々」
「最強の殺し屋を育てる役目を与えられていた」
「私たちは」
「道具だった」
玲は自分の手を見つめる。
「強くなることだけを求められる」
「普通に生きることは許されない」
「感情も」
「家族も」
「友達も」
「全部、必要ないと言われて育つ」
その声に感情はなかった。
ただ、当たり前の事実を語っているだけだった。
「目的は一つ」
「人間兵器を作ること」
恒一は拳を握る。
あの日、獄蓮会の構成員が言っていた言葉が脳裏をよぎる。
『感情を殺して、命令だけ聞く都合のいい道具にする』
あれは脅しでも誇張でもなかった。
何百年も続いてきた仕組み、そのものだったのだ。
玲は小さく笑った。
「だから言っただろ」
「冬埜家は」
「呪われた一族だ」




