第56話 涙
翌日。
夕食を終えた後。
恒一はゲーム機の電源を入れ、玲を振り返った。
「どうした?」
「今日はやらないのか?」
玲はソファへ座ったまま、小さく首を横へ振る。
「……」
恒一はコントローラーを置く。
「一緒にゲームしようぜ」
しばらく沈黙が流れる。
やがて玲が、小さく口を開いた。
「約束……」
「守れなかった」
恒一は何も言わない。
玲は俯いたまま続ける。
「本当は」
「人を殺したくなかった」
声が震える。
「もう……」
「普通になれると思ってた」
小さな涙が膝へ落ちた。
「でも」
「結局、私は殺し屋だった」
恒一は静かに立ち上がる。
何も言わず、玲の隣へ腰を下ろした。
玲は少しだけ顔を上げる。
その温もりに触れた瞬間、張り詰めていたものが切れた。
ゆっくりと恒一の肩へ身体を預ける。
そして――。
ぽろぽろと涙が溢れ始めた。
「こういち……」
震える声が漏れる。
「私を……」
「見捨てないでくれ」
その一言には、今まで胸の奥へ押し込めていた不安がすべて詰まっていた。
恒一は優しく笑う。
「見捨てるわけないだろ」
玲の頭へ、そっと手を置く。
「約束を破ったのは事実だ」
「でも、お前は人を殺したくて殺したんじゃない」
「俺を助けるためだった」
玲は涙を流しながら首を横へ振る。
「それでも……」
「怖かった」
「また昔の私に戻るんじゃないかって」
恒一は静かに玲の頭を撫でる。
「戻らない」
「俺がいる」
「一緒に普通を覚えていこう」
玲は声を上げて泣いた。
殺し屋としてではない。
一人の十四歳の少女として。
その涙は、ようやく誰かの前で流せるようになった涙だった。




