第50話 甘えてない
夕食後。
二人はソファへ並んで座り、テレビを眺めていた。
他愛もないバラエティ番組。
笑いながら見ているうちに、恒一がふと思い出したように口を開く。
「なあ、玲」
「何だ?」
「最近、変わったよな」
玲は首を傾げる。
「何が?」
「何がっていうかさ」
「最近、俺に甘えること増えたよな?」
その瞬間。
玲の動きがぴたりと止まった。
「……!」
ゆっくり恒一を振り返る。
顔がみるみる赤く染まっていく。
「ち、違う!」
「そんなことはない!」
恒一は笑う。
「そうか?」
「隣に座れって言うし」
「肩借りるし」
「抱っこしろって言うし」
「一緒に寝ろって言うし」
「全部命令だ!」
「甘えてない!」
「はいはい」
恒一が笑うと、玲はソファから立ち上がった。
「殺す!」
「殺す!」
「絶対殺す!」
クッションを掴み、恒一へ投げつける。
ぽふっ。
「弱い癖に調子に乗るな!」
「はいはい」
恒一は笑いながらクッションを受け止めた。
「でもさ」
「前のお前なら、人を頼るなんてしなかっただろ」
玲は言葉に詰まる。
「……」
何も言い返せない。
少しだけ俯き、小さく呟いた。
「こういちは」
「弱い」
「それは否定しない」
「でも」
玲は自分の手を見つめる。
「一緒にいると安心する」
「こんな気持ちは初めてだ」
「殺し屋をやってた頃は」
「逆に、いつ私が殺されるか分からなかった」
「だから、ずっと怖かった」
静かな声だった。
恒一は優しく笑う。
「だから甘えてるんだろ?」
「違う!!」
玲は勢いよく顔を上げる。
「ボケ!」
「勘違いするな!」
「……殺すぞ!」
そう叫ぶと、玲は逃げるように自分の部屋へ駆け込んだ。
バタン。
勢いよく扉が閉まる。
部屋の中。
玲はベッドへ飛び込み、枕へ顔を埋めた。
「甘えてる……?」
「私が……?」
少し考える。
そして顔をぶんぶん横へ振った。
「違う」
「違う!」
「絶対違う!」
そう何度も言い聞かせる。
けれど。
真っ赤になった顔だけは、なかなか元に戻らなかった。




