第4話 仕事帰り
三十八歳になった朝霧恒一は、保険会社の営業として働いていた。
事故や病気。
人生で最も苦しい瞬間に寄り添う仕事だ。
契約を取るだけではない。
誰かの不安を少しでも軽くすること。
それが、恒一の誇りだった。
だが、仕事を終えて会社を出れば、一人だった。
帰る家に待つ家族はいない。
結婚もしなかった。
いや――できなかった。
もし大切な人ができて、また失ってしまったら。
そんな恐怖を、二十八年間捨てることができなかった。
十二月。
街はクリスマス一色だった。
色鮮やかなイルミネーション。
店先に並ぶクリスマスケーキ。
笑い合う家族連れ。
腕を組んで歩く恋人たち。
「……この季節は嫌だな」
恒一は小さく呟く。
「寒いし」
それだけではない。
幸せそうな笑顔を見るたびに、思い出してしまう。
父。
母。
ハンバーグ。
サンタクロース。
あの夜だけは、どうしても忘れられなかった。
「……飲むか」
今日は少し、日本酒でも飲みたい気分だった。
そういえば、お得意様から聞いた話を思い出す。
『この辺に、日本酒の品揃えがすごい居酒屋があるんですよ』
『常連か紹介がないと、なかなか見つけられない店なんですけどね』
「確か、この辺だったよな……」
スマートフォンの地図を頼りに歩いているうちに、気付けば細い裏路地へ入り込んでいた。
表通りの賑やかさが嘘のように、人通りはない。
街灯も少なく、薄暗い。
「道、間違えたかな……」
そう呟きながら角を曲がった、その瞬間だった。
路地の奥に、一人の少女が立っていた。




