第45話 頼る
共同生活にも、すっかり慣れてきた頃。
玲は相変わらず命令口調だった。
昼食の準備中。
玲は冷蔵庫から瓶を取り出し、恒一へ差し出す。
「こういち」
「何だ?」
「瓶開けろ」
恒一は瓶を受け取り、苦笑する。
「お前、俺より力強いだろ」
「自分で開けられるじゃないか」
「いいから開けろ」
「命令だ」
「はいはい」
恒一は蓋を開けて返す。
「ほら」
「うむ」
玲は満足そうに受け取った。
◇
午後。
棚の上に置いてある調味料を見上げる玲。
「こういち」
「何だ?」
「取れ」
「高い所苦手か?」
「いつもジャンプして取ってるだろ」
「届くじゃないか」
「いいから取れ」
「命令だ」
「はいはい」
恒一が手を伸ばして取ると、玲は当然のように受け取る。
「ありがとう……は?」
「命令だ」
「はいはい」
◇
夜。
風呂上がり。
玲は濡れた髪のままリビングへ戻ってくる。
「こういち」
「今度は何だ?」
「髪乾かせ」
恒一は吹き出した。
「お前、いつも自然乾燥じゃないか」
「今日も放っとけば乾くだろ」
「いいから乾かせ」
「命令だ」
「断れば?」
「……殺すぞ」
「はいはい」
恒一はドライヤーを持ってくる。
「ほら、座れ」
「うむ」
玲は素直に床へ座った。
温かい風が髪を揺らす。
玲は気持ち良さそうに目を細めた。
「どうだ?」
「悪くない」
「最初からこうすればよかった」
「じゃあ明日から自分でやれ」
「嫌だ」
「何でだよ」
玲は少しだけ考え、当たり前のように答える。
「こういちがいる」
「だから頼めばいい」
恒一は一瞬だけ言葉に詰まり、苦笑した。
「そういう理屈か」
「そういう理屈だ」
玲は小さく鼻を鳴らす。
「ふん」
命令口調は相変わらずだった。
けれど、その内容はもう「従わせるための命令」ではない。
誰かを頼ることを覚えた、不器用なお願いになっていた。




