第41話 料理
休日の昼。
恒一はエプロンを着けると、玲へ声を掛けた。
「今日は料理を教えてやる」
「料理?」
「ああ」
「いつも俺が作ってるだろ」
「そろそろ自分でも作れるようになれ」
玲は腕を組んだ。
「別にお前が作ればいい」
「毎日いるとは限らないからな」
「俺が仕事遅い日だってあるだろ」
玲は少し黙り込む。
「……そうか」
「じゃあ教えろ」
「よし」
恒一は包丁を手渡した。
「まずは猫の手――」
トン。
トン。
トン。
玲は見よう見まねで野菜を切る。
だが力加減が分からない。
包丁がまな板へ勢いよく叩き付けられる。
ガンッ!
「怖い怖い!」
「野菜を切るんだ!」
「まな板を割るな!」
「難しい」
玲は不満そうに包丁を置く。
「包丁の方が弱い」
「そういう問題じゃない」
次は味付け。
「塩は少しな」
「これくらいか?」
ドバッ。
「入れすぎ!」
「少しって何だ!」
「少しは少しだ!」
玲は納得がいかない。
「曖昧だな」
「料理はそういうもんなんだよ」
出来上がった料理を食べる。
しょっぱい。
二人とも無言になった。
「……失敗だな」
「ああ」
玲はため息を吐く。
「料理って難しい」
「最初から上手くできる奴なんていない」
「焦るな」
「少しずつ覚えればいい」
玲は恒一をじっと見つめる。
「こういちのくせに偉そうだぞ」
「そうですか」
恒一は肩をすくめた。
「じゃあ、次から一人でやるか?」
玲は即答した。
「それは嫌だ」
「教えろ」
「こういち」
「これは命令だ」
「断れば?」
「殺す」
「まだ言うのか」
恒一は苦笑する。
「はいはい」
「最後まで付き合いますよ、お嬢様」
玲は満足そうに頷く。
「うむ」
「次は失敗しない」
その日から、ときどき二人で料理をするようになった。
包丁の持ち方。
火加減。
味付け。
少しずつ。
本当に少しずつだったが、玲は「料理」を覚え始めていた。




