第39話 ゲームやるぞ
夕食を食べ終えた後。
玲はゲーム機の電源を入れると、当然のようにコントローラーを恒一へ放り投げた。
「こういち」
「何だ?」
「ゲームやるぞ」
恒一はソファへ身体を預け、大きく息を吐く。
「今日は疲れたんだけどなあ」
「明日にしないか?」
玲は首を横へ振る。
「駄目だ」
「付き合え」
「命令だ」
「何で毎日なんだよ」
「一日くらい休ませてくれ」
玲はじっと恒一を見つめる。
「……」
「その顔やめろ」
「……殺すぞ」
恒一は思わず吹き出した。
「はいはい」
「分かりましたよ、お嬢様」
「最初からそう言えばいい」
「偉そうだな」
対戦開始。
恒一のキャラクターが、あっという間に画面端へ追い詰められる。
「うわ!」
「ちょっ!」
「待て待て!」
「コンボ長い!」
玲は得意そうに笑う。
「昨日、練習した」
「ゲームで自主練するなよ」
「勝つためだ」
「もう勝敗に命懸けじゃないんだからな?」
「ゲームだからだ」
「負けても死なん」
そう言いながらも、玲はどこか楽しそうだった。
ゲームが終わる。
玲は満足そうにコントローラーを置いた。
「明日もやるぞ」
「また命令か?」
「ああ」
「命令だ」
恒一は苦笑する。
「最近さ」
「何だ?」
「『殺すぞ』って、本気で言ってないだろ」
玲は少しだけ考えた。
「……そうか?」
「ああ」
「前は本当に怖かったけど」
「今は口癖みたいなもんだ」
玲は首を傾げた。
「そうなのか」
「知らなかった」
本人に自覚はない。
けれど。
いつしか「殺すぞ」は、人を脅す言葉ではなく、
照れ隠しや我がままを隠す、玲なりの口癖へ変わり始めていた。




