第36話 本当は
数日後。
夕食を食べ終えた二人は、いつものようにテレビを見ていた。
静かな時間が流れる。
玲は何度も口を開こうとしては閉じる。
「……なあ」
恒一が振り向く。
「何だ?」
玲は視線を逸らしたまま、小さく言った。
「話がある」
「珍しいな」
「何だ?」
玲はしばらく黙り込む。
そして、小さく息を吐いた。
「実は」
「ここへ来てからも」
「仕事してた」
恒一の表情が固まる。
「……仕事って」
「ああ」
「殺しだ」
玲は淡々と続ける。
「お前には、外へ出るなって言われてた」
「でも」
「仕事へ行ってた」
「悪い奴だけ選んで」
「殺してた」
恒一は何も言わない。
玲は膝の上で手を握り締めた。
「悪い奴ならいいと思ってた」
「誰も困らないと思ってた」
「だから」
「別に約束を破ってるつもりはなかった」
少しだけ俯く。
「でも」
「お前は怒るんだろ」
「殺しの話になると」
「今まで見たことないくらい」
恒一は静かに頷く。
「ああ」
玲は小さく笑う。
「変な奴だ」
「悪人が減るんだぞ」
「普通は喜ぶ」
「でも」
「お前は違う」
しばらく沈黙が流れる。
玲はぽつりと呟いた。
「最近さ」
「ゲームしたり」
「ラーメン食べたり」
「買い物したり」
「水族館行ったり」
「そういう方が」
「楽しい」
その一言は、とても小さかった。
「殺して金をもらうより」
「こっちの方が楽しい」
玲はゆっくり恒一を見る。
「だから」
「少し考えてる」
「……殺さないで生きる方法」
恒一は何も急かさなかった。
ただ静かに頷く。
「ゆっくり考えろ」
「ああ」
玲も静かに頷く。
まだ答えは出ていない。
けれど。
十四年間、殺しだけを生き方としてきた少女は、初めて別の道を歩いてみたいと思い始めていた。




