第35話 普通が楽しい
休日。
恒一と玲は、いつものようにゲームで遊んでいた。
「そこだ!」
「甘い」
玲の必殺技が決まり、ようやく一勝する。
「勝った!」
ソファから立ち上がり、両手を突き上げる。
「やっと勝ったぞ!」
恒一は苦笑した。
「おめでとう」
「ふん」
「当然だ」
そう言いながらも、玲の口元は少し緩んでいた。
昼。
二人はいつものラーメン屋へ向かう。
「ラーメン!」
店へ入るなり、玲は嬉しそうに席へ座る。
「相変わらず好きだな」
「ああ」
「うまいからな」
湯気の立つラーメンを頬張り、幸せそうに目を細める。
「やっぱり一番好きだ」
「そんなに気に入ったか」
「うむ」
「毎日でもいい」
「それは栄養が偏る」
「むぅ……」
食後。
二人はスーパーで買い物を済ませる。
魚売り場の前で、玲が足を止めた。
「魚だ」
「お前、魚好きだよな」
「ああ」
恒一は少し考えて笑う。
「そうだ」
「魚がいっぱいいるところ、行くか」
玲の目が輝く。
「食えるのか?」
「食えない」
「じゃあ何しに行く」
「見るんだよ」
「見るだけ?」
「ああ」
「変な趣味だな」
数十分後。
二人は水族館へやって来た。
大きな水槽の中を、色とりどりの魚たちが泳いでいる。
玲はガラスへ張り付くように見つめた。
「すごい……」
大きなエイが頭上を泳ぐ。
「おお……」
小さな熱帯魚の群れ。
「綺麗だな」
ペンギンがよちよち歩く。
「何だあいつ」
「可愛い」
館内を歩き回り、時間はあっという間に過ぎていく。
帰り道。
夕焼けに染まる街を、二人は並んで歩いていた。
玲は紙袋を揺らしながら、小さく呟く。
「なあ」
「何だ?」
玲は少しだけ空を見上げる。
「生きるって」
一拍置いて笑った。
「悪くないな」
恒一はその横顔を見て、静かに微笑む。
「ああ」
「そうだな」
玲はまだ知らない。
この何気ない一日が、自分の人生で一番幸せな時間になり始めていることを。




