表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/115

第29話 死んで良かった

 夕食後。


 恒一と玲は、何気なくテレビを眺めていた。


 ニュースでは、東京都御影区で起きた殺人事件の続報が流れている。


 画面に映るのは、恒一が仕事帰りの裏路地で目撃した事件。


 玲がナイフで殺した、あの男だった。


 キャスターが淡々と読み上げる。


『被害者の男性は、大手企業役員でした』


『その一方で、生前には複数の女性への性的暴行や恐喝、贈収賄などへの関与が疑われています』


『警察は余罪についても捜査を進めています』


 映像は街頭インタビューへ切り替わる。


「こんな奴なら、死んで当然ですよ」


「被害者も多かったみたいですし」


「誰かがやる前に、やっただけじゃないですか」


 続いてスタジオ。


 コメンテーターも静かに頷く。


「もちろん殺人は許されません。しかし、被害者がしてきたことを考えると、『死んで良かった』と感じる方がいるのも事実でしょう」


 玲はテレビを見たまま、小さく頷いた。


「その通りだ」


 恒一はリモコンを机へ置く。


「そう思うのか?」


「ああ」


 玲は迷いなく答えた。


「あいつは生きていても誰かを苦しめる」


「私が殺さなくても、そのうち誰かが殺してた」


「だったら、私が殺しても同じだ」


「殺していい人間だった」


 恒一は静かに首を横へ振る。


「違う」


 玲の眉がぴくりと動く。


「何が違う」


「どんな人でも、大切に思ってる人はいる」


「親かもしれない」


「子どもかもしれない」


「恋人かもしれない」


「友達かもしれない」


「悪人だからって、命を奪っていい理由にはならない」


 玲はゆっくり立ち上がる。


「お前」


「私へ命令したな」


「命令じゃない」


「俺の考えだ」


「私は間違ってない」


 玲の声が少し強くなる。


「悪人を一人殺せば、その人間に苦しめられる奴が助かる」


「それでも駄目だ」


 恒一も立ち上がる。


「人を殺すな」


「誰かを裁く権利は、お前にも俺にもない」


 玲は恒一を真っ直ぐ睨みつけた。


「私は、生まれた時からこれしか知らない」


「殺すことしか教わってない」


「それの何が悪い」


 恒一は一歩も引かなかった。


「だからこそだ」


「お前は、もう他の生き方を知っただろ?」


「ゲームをした」


「ラーメンを食べた」


「買い物へ行った」


「一緒に笑った」


「普通に生きる楽しさを知ったじゃないのか?」


 玲は言葉を失う。


 拳を強く握り締め、視線を逸らした。


「……うるさい」


 小さく呟くと、そのまま自分の部屋へ入る。


 バタン。


 扉が閉まり、部屋には重苦しい沈黙だけが残った。


 玲はベッドへ横になる。


 目を閉じても眠れない。


 頭の中では、恒一の言葉だけが何度も繰り返されていた。


「どんな人でも、大切に思ってる人はいる」


 認めたくない。


 自分は間違っていない。


 そう思えば思うほど、その言葉は心の奥へ深く突き刺さっていく。


 この日、二人は初めて、本気でぶつかり合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ