第23話 これ買え
ゲームセンターを出た帰り道。
玲が歩きながら口を開く。
「そういえば、買いたいものがあった」
「何だ?」
「炊飯器」
「壊れたのか?」
「いや」
恒一は玲をちらりと見る。
「お前がいると、今の炊飯器じゃ足りないんだよ」
「そうか」
玲は納得したように頷く。
「私は育ち盛りだからな」
「その育ち盛り、一日に五合近く食うんだけど」
「普通だ」
「普通じゃねえ」
二人は近くの家電量販店へ入った。
炊飯器売り場へ向かおうとした、その時だった。
玲の足がぴたりと止まる。
「……同じだ」
視線の先にはゲームコーナー。
店頭には、『ストリートコンバット』の家庭用版が体験できる試遊台が置かれていた。
「家でもできるのか」
「家庭用だからな」
「ほう」
玲は吸い寄せられるようにコントローラーを握る。
カチャカチャ。
カチャカチャ。
さっきまで「ぜんっぜん面白くない」と文句を言っていたとは思えないほど真剣な表情だった。
「……玲」
「……」
「おい」
「……」
返事はない。
画面に釘付けだった。
しばらくすると――
「勝った!」
玲は小さく拳を握る。
「嫌なんじゃなかったのかよ」
「うるさい!」
玲は画面から目を離さない。
「これは勝てる」
「難易度が一番低いだけだ」
「うるさい!」
そのまま二戦、三戦と遊び続ける。
やがて体験時間が終わり、デモ画面へ戻った。
玲は名残惜しそうに画面を見つめる。
そして、ゆっくり恒一の方を向く。
「これ買え」
「自分で買え」
「金はある」
「あるなら自分で買え」
玲は少しだけ俯いた。
「……汚い金なんだろ」
「……」
「汚い金を使わないと言ったのはお前だ」
「……」
「買え」
恒一は何も言い返せなかった。
「……分かったよ」
「うむ」
数十分後。
炊飯器。
ゲーム機。
『ストリートコンバット』。
三つの箱を抱えた恒一は、静かに財布の軽さを噛みしめていた。




