第22話 ゲームセンター
昼食を終えた帰り道。
二人は繁華街を歩いていた。
すると、ひときわ騒がしい建物が目に入る。
派手な音楽。
電子音。
人々の歓声。
玲は足を止め、その建物を見上げた。
「……あの五月蝿い場所は何だ?」
恒一も視線を向ける。
「ああ、ゲームセンターだ」
「げーむせんたー?」
「ゲームで遊ぶ場所」
玲はしばらく建物を眺める。
「昔から気になっていた」
「じゃあ、寄ってみるか?」
「うむ」
二人は店内へ入った。
色鮮やかな光。
所狭しと並ぶゲーム機。
初めて見る光景に、玲は辺りを見回す。
「遊ぶためだけの建物なのか」
「そういうこと」
「変な文化だな」
そう言いながらも、その表情はどこか楽しそうだった。
店内を歩いていると、一台の格闘ゲームが目に留まる。
筐体には大きく、
『STREET COMBAT』
と書かれていた。
画面の中では、二人の格闘家が激しく拳を交えている。
玲は筐体を指差した。
「これ何だ?」
「『ストリートコンバット』っていう格闘ゲームだ」
「げーむ?」
「ゲームっていう遊びだ。操作して相手と戦うんだよ」
玲は画面を見つめ、小さく頷く。
「戦いを遊びにしたのか」
「本当に殴り合うわけじゃないからな」
「なるほど」
玲は少し考え込む。
「……実際に殴り合えば早いのに、わざわざゲームで殴り合うのか?」
「実際に殴り合ったら警察沙汰になるんだよ」
「警察……」
「これは遊びだからな。勝っても負けても笑って終われる」
玲は周囲を見回す。
負けて悔しがる者。
勝って喜ぶ者。
それでも皆、笑いながら席を譲り合っていた。
「……平和だな」
「それに、これは一人でも遊べる」
「一人で?」
「コンピューター相手に戦えるんだ」
玲の目が少しだけ輝く。
「ほう」
恒一は百円玉を取り出し、筐体へ入れた。
「まずはやってみろ」
「うむ」
玲は初めてコントローラーを握る。
――三分後。
「負けた」
コンティニュー。
再挑戦。
「負けた」
もう一回。
「……また負けた」
玲は無言でコントローラーを操作し続ける。
攻撃。
ガード。
ジャンプ。
必殺技。
しかし、相手は容赦なく玲を叩きのめした。
「勝てない」
もう一回。
「勝てない」
さらにもう一回。
「……殺せない」
恒一は額を押さえた。
「殺すゲームじゃない」
玲は不満そうに画面を睨む。
「ぜんっぜん面白くない」
「いや、慣れてないだけだって」
「実際に戦った方が早い」
「だから実際に戦わないためのゲームなんだよ」
玲は悔しそうにその場で地団駄を踏む。
「むぅぅぅ……!」
近くにいた小学生が振り返る。
恒一は思わず苦笑した。
「ほら、帰るぞ」
「……帰る」
玲は最後にもう一度だけ『ストリートコンバット』の画面を睨みつけると、ふてくされた様子でゲームセンターを後にした。
彼女にとって、ゲームという文化は――まだ少し早かった。




