第21話 初めての外食
家への帰り道。
恒一は腕時計を見て、小さく息を吐いた。
「もう昼か」
玲は買い物袋を抱えたまま呟く。
「腹減った」
「俺もだ」
恒一は少し考える。
「家帰って飯作るのも面倒だな」
玲は首を傾げた。
「作らないのか?」
「今日は外で食う」
「外?」
「ああ」
「ラーメン」
「ファミレス」
「回転寿司」
「どこにする?」
玲はきょとんとした。
「何だ?」
「知らないのか?」
「知らん」
恒一は思わず笑った。
「そっか」
「まだ教えてなかったな」
「じゃあ今日は、ラーメンにするか」
「らーめん」
玲は初めて聞く言葉を小さく繰り返した。
◇
二人は近所のラーメン屋へ入った。
「いらっしゃいませ!」
店員の元気な声が響く。
玲は一瞬だけ肩を震わせ、店内を見回した。
「どうした?」
「人、多い」
「昼時だからな」
二人はカウンター席へ座る。
恒一はメニューを玲へ渡した。
「好きなの選べ」
玲は真剣な表情でページをめくる。
「醤油」
「味噌」
「塩」
「豚骨」
「全部違うのか?」
「スープの味が違う」
「じゃあ」
「おすすめ」
恒一は笑う。
「最初なら醤油かな」
「分かった」
数分後。
湯気の立つラーメンが運ばれてきた。
玲は丼をじっと見つめる。
「これが……」
「ラーメン」
「食ってみ」
玲は箸を手に取り、麺を口へ運ぶ。
一口。
もう一口。
さらにもう一口。
気付けば夢中で食べていた。
そして勢いよく顔を上げる。
「ラーメン!」
「ラーメンめっちゃ美味い!」
「今まで食べたやつで一番美味い!」
恒一は思わず笑った。
「そんなにか」
玲は真剣な顔で頷く。
「違うぞ」
「もちろん、お前の飯も好きだ」
「だが、これは格別だ!」
「それはどうも」
恒一は苦笑した。
「会では何食ってたんだ?」
玲は即答する。
「味なんてない」
「栄養だけ考えたペーストって言っただろ」
「馬鹿」
「最後の一言いらんだろ!」
恒一がツッコミを入れると、玲は満足そうに最後のスープを飲み干した。
「ごちそうさま」
器は綺麗に空になっていた。
店を出る。
玲は少し歩いてから、小さく呟く。
「また来たい」
恒一は少し驚く。
「気に入ったか」
「うん」
「ラーメン好き」
その素直な一言に、恒一は自然と笑みを浮かべた。
「じゃあ、また食いに来よう」
「約束だ」
「おう」
玲は小さく頷いた。
こうして玲はまた一つ、「普通」の楽しさを知るのだった。




