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おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus


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第20話 普通の社会

 スーパーで買い物を終えた帰り道。


 二人は銀行へ立ち寄った。


 恒一はATMで現金を引き出し、財布へしまう。


 その様子を玲はじっと見つめていた。


 銀行を出ると、玲が口を開く。


「さっき」


「何しに行った?」


 恒一は呆れたように笑う。


「銀行だよ」


「金を引き出してた」


「何で?」


「買い物したから財布が軽くなったんだ」


「生活するには金がいる」


 玲は少し考え込む。


「銀行って何だ?」


 恒一は思わず立ち止まった。


「……知らないのか?」


「知らない」


「お金を預けたり、引き出したりする場所だ」


「何で預ける?」


「盗まれないようにだよ」


「なるほど」


 玲は小さく頷く。


「私は裏口座」


「……さらっと怖いこと言うな」


 恒一は苦笑する。


「お前のせいで余計に金がかかるんだからな」


「飯代」


「服」


「生活用品」


「全部俺持ちだ」


 玲は悪びれる様子もなく答えた。


「ありがとう」


「そこは素直なんだな……」


 二人は再び歩き始める。


「あれは?」


 玲が指差した先には市役所があった。


「役所」


「何する場所?」


「住民票とか戸籍とか、いろいろ手続きするところだ」


「戸籍ってなんだ?」


 恒一は少し考えてから答える。


「簡単に言うと、人が生まれてから死ぬまでの情報を国が記録してるものだ」


「誰の子どもかとか、名前とか、家族関係とか」


「そういうのをまとめて管理してる」


 玲はじっと聞いていた。


「それがないと?」


「その人が存在してるって証明できない」


「学校にも行けないし、仕事もできない」


「病院もまともに使えない」


 玲は少し考えたあと、ぽつりと言った。


「私、ない」


「……え?」


「戸籍ない」


 恒一は言葉を失う。


 考えてみれば当然だった。


 殺し屋として育てられた少女が、普通の家庭で出生届を出されているとは思えない。


「身分証は?」


「ない」


「保険証は?」


「ない」


「病院は?」


「行ったことない」


「風邪ひいたら?」


「寝る」


「怪我したら?」


「治る」


「……」


 恒一は頭を抱えた。


「学校は?」


「行ったことない」


「電車は?」


「乗ったことない」


「切符は?」


「知らない」


「改札は?」


「何それ」


 質問するたびに「知らない」が返ってくる。


 十四歳。


 それなのに、普通の社会のことを何一つ知らなかった。


 玲は首を傾げる。


「そんなに変か?」


 恒一は苦笑する。


「変っていうか……」


「お前、今までどうやって生きてきたんだよ」


 玲は即答した。


「殺して」


「食って」


「寝る」


「それだけ」


 あまりにも簡潔だった。


 恒一は小さく息を吐く。


「玲」


「お前は俺と生きる以上、普通を覚えろ」


 玲は眉をひそめた。


「命令するな」


「これは命令だ」


「嫌だ」


「じゃないと捕まるぞ」


 その一言で、玲の動きが止まる。


「……それは困る」


「だろ?」


「うん」


「じゃあ勉強だ」


 玲は少しだけ不満そうな顔をした。


「仕方ない」


「少しだけ覚える」


 恒一は思わず笑う。


「よし」


 こうして、最強の殺し屋少女による“普通の社会勉強”が始まるのだった。

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