第19話 スーパー
土曜日。
恒一は冷蔵庫を開くと、中を見回してため息を吐いた。
「食材、ほとんどないな」
玲はソファへ寝転がったまま尋ねる。
「どうする」
「スーパーへ買いに行く」
「一週間分まとめ買いだ」
玲は首を傾げた。
「今日は休みじゃないのか?」
「休みだけど、食材がなかったら飯が作れないだろ」
「なるほど」
恒一は財布をポケットへ入れながら振り返る。
「ちなみに、お前何か食いたいものあるか?」
玲は少し考える。
「食えれば何でもいい」
「ただ」
「お前の飯は美味い」
恒一は少し照れくさそうに笑った。
「あっそ」
「じゃあ何でもいいな」
玲は真面目な顔で尋ねる。
「もっと美味いもの作れるのか?」
「まあ、食材次第だけどな」
玲は立ち上がる。
「連れてけ」
「スーパー」
「行く」
◇
十分後。
二人は近所のスーパーへやって来た。
自動ドアが開く。
店内へ足を踏み入れた玲は、その場で立ち止まった。
「……」
野菜。
肉。
魚。
惣菜。
お菓子。
飲み物。
棚いっぱいに並ぶ食べ物を見て、玲は目を丸くする。
「食べ物が……」
「いっぱいある」
恒一は驚いた。
「スーパー来たことないのか?」
「ない」
「全部、会が用意してた」
「買い物したことない」
「でも」
「会の飯は不味い」
「栄養だけ考えたペースト」
「毎日同じ味」
恒一は苦笑する。
「そりゃ嫌だな」
玲は店内を歩き回る。
やがて一つのお菓子を手に取った。
「これ、うまそう」
そのまま出口へ向かって歩き出す。
「おい!」
恒一は慌てて呼び止めた。
「どこ行く!」
「帰る」
「食べる」
「待て待て!」
恒一は玲の肩を掴む。
「お金払ってない!」
玲は首を傾げた。
「何で?」
「店の商品だからだよ」
「お金を払って買うんだ」
玲は小さく頷く。
「なるほど」
そしてスマートフォンを取り出した。
「金ならある」
「この前振り込まれた」
画面を見た恒一は目を丸くした。
「……多っ!」
一般の会社員なら、一生働いても手にできるか分からない金額だった。
「じゃあ、それで払えば――」
玲が言いかけると、恒一は首を横に振った。
「駄目だ」
「え?」
「その金は使わない」
玲は不思議そうな顔をする。
「何でだ?」
恒一は真っ直ぐ玲を見た。
「殺しで稼いだ金だろ」
「そんな汚い金、使う気はない」
玲は少し黙る。
「……変なの」
「金は金だろ」
恒一は苦笑した。
「玲」
「お前の言ってることは意味が分からない」
「金は金だ」
「でもな」
「俺は使いたくない」
玲はしばらく恒一を見つめていた。
やがて小さく頷く。
「分かった」
「今日は、お前が払う」
「そういうこと」
恒一は自分の財布からお金を取り出し、レジへ向かった。
玲はその背中を見つめながら、小さく首を傾げる。
人を殺して稼いだ金は駄目。
なのに、人を殺した自分には飯を食わせる。
やっぱり、このおっさんはよく分からなかった。




