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おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus


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第16話 寝込みは襲うな

 朝。


 リビングには穏やかな朝日が差し込んでいた。


 ソファでは玲が毛布にくるまり、気持ち良さそうに眠っている。


 時計を見ると、もう九時を過ぎていた。


 恒一は苦笑しながら声を掛ける。


「おい、起きろ」


 返事はない。


「玲」


 ぴくりとも動かない。


「……おい、本当に起きろ」


 それでも反応はない。


 恒一は肩をすくめた。


「叩き起こすぞ」


 そう言って、玲の肩へそっと手を伸ばす。


 その瞬間だった。


 玲の瞳が一瞬で開く。


 身体が跳ね起きると同時に、銀色の刃が恒一の喉元へ突き付けられていた。


 切っ先が皮膚へ触れる。


 一歩でも動けば、首が切れる距離。


 恒一の背中を冷や汗が流れた。


「……」


 玲は無表情のまま告げる。


「私の後ろに立つな」


「殺すぞ」


 寝起きとは思えない殺気。


 部屋の空気が一瞬で張り詰める。


 数秒後。


 玲はようやく状況を理解したのか、小さく瞬きをした。


「……朝か」


 何事もなかったようにナイフをしまい、大きく欠伸をする。


「ふぁ……」


 恒一はその場へへたり込んだ。


「寿命縮んだわ……」


「?」


「普通、寝起きに首へナイフ向けるやついるか?」


「いる」


「いや、いない」


 玲は首を横へ振る。


「殺し屋は寝込みを襲われることが多い」


「だから、目が覚めた瞬間に反撃する」


「身体が勝手に動く」


「……条件反射か」


「うん」


 あまりにも当然のように頷く玲を見て、恒一は深いため息をついた。


「次からは絶対に触らん」


「それがいい」


 玲は満足そうに頷くと、淡々と続けた。


「寝込みだけじゃない」


「食事中」


「風呂」


「トイレ」


「その時も襲われることが多い」


 恒一は眉をひそめる。


「トイレまで?」


「一番油断する」


「……殺し屋って大変なんだな」


 玲は真顔で言った。


「だから、お前が見張れ」


「……は?」


「寝る時」


「食事中」


「風呂」


「トイレ」


「全部」


 恒一は即座に首を振る。


「無茶言うな」


「なぜ」


「風呂とトイレは特に無理だ!」


「見張らないと死ぬ」


「その前に俺が社会的に死ぬ!」


 玲は少し考え込む。


「……確かに」


「分かってくれたか」


「では、風呂は諦める」


「トイレも諦めてくれ!」


 玲は少しだけ残念そうな表情を浮かべた。


「分かった」


「寝る時と食事中だけ頼む」


「そこも十分重いんだよ……」


 恒一は頭を抱える。


 普通の会社員だったはずなのに、気が付けば元殺し屋の護衛係まで兼任することになっていた。


 もちろん、本人の意思とはまったく関係なく。

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