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おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus


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第13話 曲がった指

 風呂を終えた玲は、恒一から借りたTシャツ姿のままソファへ寝転がっていた。


 恒一は何気なく、玲の両手へ目を向ける。


 十本すべての指が、不自然なほど歪に曲がっている。


 さっきからずっと気になっていた。


「なあ」


「何だ」


「その指……どうやったら、そんな風になるんだ?」


 玲は自分の両手を見つめ、少しだけ得意そうに笑った。


「これか」


「すごいだろ」


 そう言って、両手を恒一の前へ突き出す。


 曲がった指を、まるで勲章でも見せるように誇らしげだった。


「本物のナイフより硬い」


「お前なんか、武器がなくても簡単に貫ける」


「ふん」


 恒一は苦笑する。


「褒めてないからな」


「どうやったらこんな指になるんだよ」


 玲は当然のように答えた。


「貫手修行」


「最初は熱した砂だ」


「熱した砂!?」


 恒一は思わず声を上げる。


 玲は気にする様子もなく続けた。


「毎日、熱した砂へ指を突っ込む」


「慣れたら砂利」


「次は石」


「その次は竹を束ねたやつ」


「最後は新品の畳だ」


「新品の畳を、一撃で貫けるまで終わらない」


「骨が折れても続ける」


「治ったら、またやる」


「それの繰り返しだ」


 あまりにも淡々とした口調だった。


 まるで学校の授業でも説明するように話す。


 恒一は言葉を失う。


「……痛くなかったのか?」


 玲は少しだけ考え、小さく頷いた。


「ああ」


「痛かった」


 少し視線を落とす。


「特に畳は痛かったな」


「何回やっても痛かった」


 その一言だけは、十四歳の少女らしかった。


 だが次の瞬間には、また得意げな笑みへ戻る。


「でも、そのおかげで強くなった」


「これ、本当に硬いんだぞ」


 そう言うと、人差し指をテーブルへ軽く突き立てた。


 ゴッ――。


 鈍い音が部屋へ響く。


 分厚い木の天板には、小さな穴が開いていた。


 恒一は目を見開く。


「……嘘だろ」


 玲は満足そうに胸を張った。


「だから言っただろ」


「私自身が武器なんだ」


「ふん」


 その笑顔は、褒めてもらいたくて仕方がない子どものようだった。


 恒一は穴の開いたテーブルと、玲の歪んだ指を交互に見つめる。


 普通の十四歳なら、こんな手になる前に誰かが止める。


 誰かが叱る。


 誰かが守る。


 けれど玲には、それがいなかった。


 目の前で誇らしげに笑う少女が、恒一には少しだけ痛々しく見えた。


 ふと、恒一は思い出したように口を開く。


「そういえば」


「何だ」


「自己紹介はされたけど、俺、お前のこと一度も名前で呼んでなかったな」


 玲は首を傾げる。


「そうか?」


「ああ」


 恒一は何気なく、その名前を口にした。


「玲」


 その瞬間だった。


 玲の表情が、一瞬で消える。


「名前で呼ぶな」


「え?」


「殺すぞ」


「何でだよ」


「嫌だからだ」


「理由になってないぞ」


「いい」


「お前は、お前で呼べ」


 恒一は苦笑しながら肩をすくめる。


「……分かったよ」


「じゃあ、お前って呼ぶ」


「うむ」


 玲は満足そうに頷いた。


 名前を呼ばれること。


 それがどうして嫌なのか。


 玲自身にも、その理由はまだ分かっていなかった。

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