第11話 親
夕食を食べ終えた後。
玲はソファへ寝転び、満腹そうに天井を眺めていた。
恒一は食器を洗いながら、ふと思っていたことを口にする。
「なあ」
「何だ」
「親は心配してないのか?」
玲は少しだけ動きを止めた。
そして、何でもないことのように答える。
「いない」
恒一の手が止まる。
「いないって……」
玲は天井を見つめたまま言った。
「私が殺した」
食器が手から滑りそうになる。
「……え?」
玲はゆっくり恒一へ視線を向ける。
その瞳には、悲しみも後悔もない。
ただ、事実を話しているだけだった。
「勘違いするなよ」
「好きで殺したわけじゃない」
「そこまで私は堕ちちゃいない」
静かな声だった。
「じゃあ、どうして……」
玲は少しだけ目を伏せる。
「殺されそうになったから」
「先にやらなきゃ、私が死んでた」
短く、それだけ告げる。
部屋に静寂が流れた。
やがて玲は、小さく鼻で笑う。
「殺し屋の家系ってのは、そんなもんだ」
「お前たち表の人間には、一生理解できない世界だ」
少し間を置いて続ける。
「……理解してほしいとも思わない」
その言葉には、どこか諦めが滲んでいた。
恒一は何も言えなかった。
自分は十歳の時、両親を殺された。
玲は十歳の時、生きるために両親を殺した。
結末は正反対なのに、二人とも十歳で家族を失っている。
その事実だけは、あまりにも同じだった。
玲は再びソファへ身体を預け、ぽつりと呟く。
「だから親なんていない」
「心配する奴も、される奴もな」
その声は淡々としていた。
まるで他人の話をしているようだった。
けれど恒一には、そう自分へ言い聞かせているようにも聞こえた。
――この子は、本当は。
父親に頭を撫でてもらいたかった。
母親に抱き締めてもらいたかった。
そんな当たり前を、一度も知らずに生きてきたのではないか。
そう思うと、胸の奥が少しだけ痛んだ。
だが、その考えを口にはしなかった。
今はまだ、踏み込んではいけない気がしたからだ。
恒一は小さく息を吐き、玲を見た。
ふと、不揃いに切り揃えられた短い髪が目に入る。
「そういえば」
「何だ」
「その髪、自分で切ってるのか?」
玲は自分の前髪をつまみ、小さく頷いた。
「ああ」
「戦う時に掴まれるから」
「短い方がいい」
それだけだった。




