第10話 プロ
ニュース番組が終わり、部屋に静寂が戻る。
恒一はテレビの電源を切り、ソファへ座る玲を見た。
「なあ、一つ聞いていいか」
「何だ」
「殺し屋ってさ」
「もっとスナイパーライフルとか使うイメージだったんだけど」
玲は呆れたようにため息を吐いた。
「お前」
「ほんっとに馬鹿なんだな」
「いきなり悪口かよ」
玲は鼻で笑う。
「映画の見過ぎだ」
「銃は目立つ」
「発砲音」
「薬莢」
「弾丸」
「硝煙反応」
「全部証拠になる」
「防犯カメラにも映りやすい」
「逃げる時も邪魔」
まるで授業でもするように、淡々と説明を続ける。
「じゃあ、ナイフは?」
「静か」
「軽い」
「捨てれば終わり」
「取り回しもいい」
「証拠が圧倒的に少ない」
玲は当然のように続けた。
「足跡は残さない」
「指紋も残さない」
「防犯カメラの位置は全部把握する」
「死角しか歩かない」
「必要なら変装もする」
恒一は思わず息を呑んだ。
「そこまで考えてるのか……」
玲は少し得意そうに胸を張る。
「当たり前だ」
「私、プロだから」
「ふん」
そう言って、両手を恒一の前へ突き出した。
十本すべての指が、不自然な方向へ歪んでいる。
何度も折れ、潰れ、治り、また壊される。
そんな修行を繰り返したことが、一目で分かる手だった。
玲はその手を誇らしげに眺める。
「武器なんて、あんまり要らない」
「私自身が武器だから」
握った拳をゆっくり開く。
歪んだ指先は、まるで猛獣の鉤爪のようだった。
「この手だけで喉も心臓も貫ける」
「ナイフは、あった方が楽だから使ってるだけ」
十四歳の少女とは思えない。
目の前にいるのは、人間の姿をした凶器だった。
恒一は思わず苦笑する。
「でもさ」
「何だ」
「俺には見つかったじゃないか」
「口封じに来たんだろ?」
一瞬。
玲の動きが止まる。
「……」
「プロなんだろ?」
「それって失敗じゃないのか?」
玲は眉をひそめた。
「お前……」
「うざいな」
「図星か?」
玲は顔を背ける。
「仕方ないだろ」
「腹が減ってたんだ」
「何日もまともに食べてなかった」
「判断力も鈍る」
「いつもなら、あんなヘマしない」
恒一は思わず吹き出した。
「ははっ」
「プロにも腹は減るんだな」
玲は腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「当たり前だ」
「人間だからな」
そう言いながらも、どこか照れくさそうに視線を逸らした。
恒一は少しだけ笑みを浮かべる。
この少女は、殺し屋としては間違いなく超一流なのだろう。
だが、その完璧な「プロ」にも、腹が減れば失敗する。
そのことが少しだけ可笑しくて、少しだけ安心できた。




