第9話 フリーランス
恒一は大きくため息を吐いた。
「一つ聞いていいか」
「何だ」
「お前、今までどうやって生活してたんだ?」
玲は湯呑みのお茶を一口飲み、当たり前のように答えた。
「獄蓮会に所属していた」
「獄蓮会?」
「ああ」
「金になるなら何でもやる、裏の組織だ」
玲は淡々と続ける。
「暗殺」
「護衛」
「誘拐」
「依頼があれば何でもやる」
「裏じゃ有名だ」
恒一は思わず顔をしかめた。
「そんな組織だったのか……」
玲は頷く。
「でも最近抜けた」
「今は逃げてる」
恒一は目を丸くする。
「逃げてる?」
「ああ」
「裏切り者だからな」
「見つかったら殺される」
あまりにも淡々とした口調だった。
恒一は少し黙り込み、尋ねる。
「そこまで分かってて」
「何で抜けたんだ?」
玲は少しだけ眉をひそめた。
「上の連中が気に入らない」
「弱い癖に命令してくる」
「腹が立つ」
恒一は思わず苦笑する。
「それだけか?」
「ああ」
「命令されるの嫌い」
玲は腕を組んだ。
「私より弱い奴に従う理由がない」
「……お前らしいな」
玲は肩をすくめる。
「だから抜けた」
「会にいた頃は、お金なんて触ったこともない」
「報酬も財産も、全部会が管理してた」
「逃げる時に持ち出せたのは、服とナイフ、それからスマホだけ」
「現金は?」
「ない」
「最後の仕事の報酬も、まだ振り込まれてなかった」
「だから腹減ってた」
恒一は思い出す。
あの日。
玲が自分の家へ来た理由は、口封じだった。
本来なら、ここで自分は殺されていた。
だが、玲は空腹でまともに動けず、そのまま食事を与えられた。
結果として、自分は命を拾ったのだ。
「なるほど……」
「そういうことか」
玲は小さく頷く。
「うん」
玲はポケットから黒いスマートフォンを取り出した。
「これ」
「裏のネットワークに繋がる」
「依頼が流れてくる」
「受ける」
「殺す」
「終わったら報酬が振り込まれる」
玲は少しだけ胸を張った。
「今はフリーランス」
「フリーランスの殺し屋だ」
恒一は思わず頭を抱える。
「フリーランスって……」
「会社辞めて独立しました、みたいに言うな」
玲は首を傾げる。
「違うのか?」
「違う」
「会にいた頃より気楽だ」
「好きな依頼だけ受ければいい」
「どういう依頼を選ぶんだ?」
玲は少し考えて答えた。
「悪そうな奴」
「報酬の高い奴」
「その二つ」
「……基準が物騒すぎる」
玲は不思議そうに首を傾げた。
「仕事なんだから」
「効率は大事だろ」
その口調には、誇りも罪悪感もなかった。
ただ、幼い頃から教えられた仕事を説明しているだけだった。




