SS 第3話 趣味
入学初日。
この日は学校の説明が中心で、授業はなかった。
休み時間になると、教室は一気に賑やかになる。
あちこちで笑い声が響き、初対面同士とは思えないほど会話が弾んでいた。
玲は一人、静かに席へ座っている。
(普通って難しいな)
そう思っていると。
「ねえねえ」
突然、隣から声を掛けられた。
「っ!」
玲は反射的に椅子を蹴って立ち上がる。
身体は半歩後ろへ。
両手は自然と構えを取っていた。
その動きは、一瞬だった。
「わっ!」
隣の女子生徒が目を丸くする。
「ご、ごめん!」
「驚かせちゃった?」
玲は我に返る。
「……あ」
慌てて構えを解いた。
(しまった)
(癖が出てしまった)
(お父さん相手には、もう出ないのに)
少しだけ気まずい空気が流れる。
しかし、女子生徒は気にした様子もなく笑った。
「びっくりしたぁ」
「改めて!」
にこっと笑って手を差し出す。
「私、佐倉ひより!」
「玲ちゃんだよね?」
玲は戸惑いながら頷く。
「ああ」
ひよりは興味津々な様子で身を乗り出した。
「ねえねえ、玲ちゃんって趣味ある?」
「趣味……?」
玲は真剣に考え始める。
(普通だ)
(普通の趣味)
(何だ)
(えっと……)
頭の中が真っ白になる。
そして。
ようやく思いついた答えを口にした。
「……武器の手入れだ」
一瞬。
教室の空気が止まる。
「えっ?」
玲は顔が青くなる。
(しまった)
(失敗した)
そう思った次の瞬間。
「ミリタリー好きなんだ!」
ひよりの目が輝いた。
「私も好き!」
「女の子で好きな人、なかなかいないんだよ!」
玲は思わず瞬きを繰り返す。
「そう……なのか?」
「うん!」
ひよりは満面の笑みで言った。
「玲ちゃん!」
「友達になろ!」
友達。
その言葉を聞いた瞬間、玲の思考が止まる。
(友達……)
生まれて初めて向けられた、その言葉。
玲は何と返せばいいのか分からず、少し慌てながら答えた。
「……は、はあ」
その返事を聞いて、ひよりは楽しそうに笑った。
「よし! 今日から友達ね!」
玲はまだ状況を理解しきれていなかった。
けれど。
その日。
朝霧玲は、生まれて初めて同年代の友達ができた。




