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おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus文庫


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第105話 本当の家族

 仕事を終えた恒一は、いつものように家の扉を開けた。


「ただいま」


 キッチンから、明るい声が返ってくる。


「おかえり、こういち」


 その声だけで、自然と頬が緩む。


 エプロン姿の玲が、嬉しそうに食卓を指差した。


「今日は自信作だ」


 テーブルには、湯気の立つ料理が並んでいる。


 その真ん中には、大きなハンバーグ。


 恒一は、その料理を見つめたまま動けなかった。


 幼い頃。


 母が笑顔で言ってくれた。


『明日、ハンバーグを作ってあげるね』


 けれど、その約束は果たされなかった。


 あの日から二十八年。


 ずっと心のどこかに残り続けていた、たった一つの約束。


 恒一は静かに席へ座る。


 玲も向かいへ腰掛けた。


「食べろ」


「ああ」


 ナイフを入れる。


 肉汁が溢れる。


 一口。


 ゆっくりと噛み締める。


 そして、小さく笑った。


「……うまい」


 玲は少しだけ得意そうに胸を張る。


「当然だ」


「私、料理もプロだから」


「ふっ」


 二人は顔を見合わせ、思わず笑った。


 恒一は、玲の手へ視線を落とす。


 少し曲がった指。


 幾つもの傷跡。


 かつて、人を殺すためだけに鍛えられた小さな手。


 玲自身が、人目を避けるように隠していた手。


 今では。


 その手が、大切な人のために料理を作っている。


 その事実が、何より嬉しかった。


 血の繋がりはない。


 過去が消えるわけでもない。


 悲しかった出来事も。


 苦しかった記憶も。


 きっと、一生忘れることはない。


 それでも。


 二人は同じ家へ帰り。


 同じ食卓を囲み。


「ただいま」


「おかえり」


 そう言い合える。


 朝霧恒一。


 朝霧玲。


 父と娘。


 その絆は、血ではなく、共に歩んできた日々が結んだものだった。


 二人はいつの間にか。


 世界でたった一つの、本当の家族になっていた。

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