第104話 ハンバーグ
玲は料理の練習を始めた。
最初は散々だった。
火加減が分からず、焦がす。
「……黒い」
味付けも失敗する。
「しょっぱい」
ハンバーグを焼けば、ひっくり返す途中で崩れる。
「あ」
玲は額へ手を当て、小さくため息をついた。
「難しいな」
それでも。
諦めなかった。
料理本を読み。
動画を見て。
恒一へ教わりながら。
何度も。
何度も作り直した。
ある日。
恒一が焦げたハンバーグを見つめて苦笑する。
「今日は外食にするか?」
玲は首を横へ振る。
「嫌だ」
「次は成功する」
そう言うと、新しいひき肉を取り出した。
恒一は思わず笑う。
「そんなに頑張らなくてもいいぞ」
玲は手を止めない。
「駄目だ」
「どうして?」
玲は少しだけ照れくさそうに俯いた。
「……こういちのためだから」
その一言だった。
恒一は何も言えなかった。
目の前で一生懸命料理を作る少女。
かつては、人を殺すことしか教えられなかった少女が。
今は、大切な人のために料理を覚えようとしている。
その姿が、何よりも嬉しかった。
恒一は静かに微笑む。
「じゃあ」
「俺も、一緒に作るか」
「ああ」
二人は並んでキッチンへ立つ。
焦がしても。
失敗しても。
笑い合いながら、また作ればいい。
そんな当たり前の時間が。
二人にとっては、何より幸せだった。




