第103話 普通の女の子
朝霧家での新しい生活が始まった。
殺し屋として生きてきた玲にとって。
普通の暮らしは、知らないことばかりだった。
学校へ通うための勉強。
国語。
数学。
社会。
理科。
「漢字、多すぎる」
教科書を見つめながら、玲は小さくため息をつく。
人との接し方も学んだ。
「ありがとう」
「ごめんなさい」
今まで必要のなかった言葉。
けれど。
恒一は何度も教えてくれた。
「言葉にしないと伝わらないこともある」
玲は少し照れながらも、小さく頷いた。
お金の使い方も覚える。
「欲しいから買う」
そんな考え方しか知らなかった玲は、財布を見つめて首を傾げる。
「将来のために残すんだ」
「……難しい」
社会のルールも、一つずつ学んでいく。
信号を守る。
順番を守る。
列に並ぶ。
誰かへ迷惑を掛けない。
どれも。
普通の人にとっては当たり前のこと。
玲にとっては、初めて知る世界だった。
空いた時間には、恒一の仕事も手伝う。
荷物を運び。
書類を整理し。
少しずつ、働くということも覚えていく。
「人の役に立つって」
「何か変な気分だな」
そう言って照れ笑いする玲を見て、恒一も笑った。
少しずつ。
本当に少しずつ。
玲は「普通」を覚えていった。
帰り道。
夕焼けを見上げながら、玲がぽつりと呟く。
「普通って」
「難しいな」
少しだけ考えて。
ふっと笑う。
「でも」
「楽しい」




