第08話 初めての海
初めて海を見たノブのテンションはマックス、メーター振り切ってる。
「うわあ、すげえ広いぞ!!」
「何だこりゃ、しょっぱくて飲めたもんじゃない!!」
波打ち際でひとしきりはしゃいだ後、ノブは俺のところまで戻ってきた。
「ミー助、これが海なんだな。お前は初めてじゃないんだよな」
「まっ、まぁな…」
犬の茶々丸としては、日和たちに何回も連れて行ってもらったことがあったが、猫として来たのは初めてだ。てことは、俺もはしゃいでいいんだ。
「ノブ、今度は一緒に行こうぜ」
「おぅ、追いかけっこしようぜ」
「あまり波の方まで行くなよ。波にさらわれたら戻って来れなくなるからな」
やっぱり海は楽しいね。俺も一緒になってはしゃいだ後、並んで砂浜に座るとノブが小さい声で言った。
「でも、やっぱりここじゃないんだよな」
「日本は海だらけだからさ、ここじゃないからって諦める必要なんかないぞ」
「大丈夫だ、ここじゃないけど前ほど落ち込まない」
浜辺に沿ってゆっくり歩き始めると、向こうの方から初老の男女と茶色の大きな犬がやってくるのが見えた。夫婦で朝の散歩かな。
「ジョン! 取っておいで」
男性が犬のリードを外してフリスビーを投げる。犬は夢中でフリスビーを追いかけ、咥えて飼い主のところへ戻る。男性は、わしゃわしゃ撫でながら犬を褒める。なんか楽しそうだな…
「あんなに、人間に媚びるような真似をして何が楽しいんだろうね」
「まっ、まぁな…」
ノブがボソっと呟くが、俺はあの楽しさを知っている。褒められる嬉しさもね。
そのうちフリスビーがこっちの方へ飛んできて、犬が俺たちの目の前で止まった。さすがに近くて見ると大きくて迫力がある。俺たちは身構えた。
「やぁ、おはよう」
威嚇することもなく、低く落ち着いた声で犬が挨拶してくる。なんとも礼儀正しい犬だ。
「おはよう」「おはょ…」
「キミたちは何をしているんだい?」
「俺たちは旅の途中さ」
「朝ごはんはまだかい? ボクのご主人様はとてもいい人だから、キミたちにも何かくれるかもしれないぞ。よかったら一緒に行こう」
「ジョン! 戻っておいで」
男性の声に促されるように、俺たちはジョンに付いて飼い主たちの所へ行く。
「あら、ジョンが猫ちゃんを連れてきたわ」
「ジョンは誰とでもすぐ仲良くなるな」
「このおやつなら大丈夫でしょ、さぁ、お食べ」
俺は遠慮なくいただく。ノブはちらっとこちらを見たが、俺の様子を見てから嬉しそうに食べた。そんな俺たちの様子を見て、老夫婦も楽しそうだ。
「ジョン、ありがとう」
「キミたちの無事を祈っている。よい旅を!」
俺たちは老夫婦の手をペロッと舐め、心の中で礼を言ってその場を後にした。
「ミー助、ペットフードって美味ぇな」
「まっ、まぁな…」
「人間も犬も、そんな悪いもんじゃないな」
「うん、そうさ
俺は海の楽しさも、人間の優しさも知っている。
ノブにも少しは伝わったかな。
今日は朝からいいことがあった。いい一日になりそうだ。




