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第34話 キング

少し遅れてトウキチも河原に着いた。みんなで囲むようにノブとキングの戦いを見守る。少し離れた所では町の猫たちが不安そうに見ている。



「この戦いで負けたほうがこの町を出て行くってのはどうだ?」


怒りが頂点に達しているキングに向かい、落ち着いた声でノブが言う。


「いいぜ。でもお前は負けても町を出て行くことはできない。俺に()られるからな」


言うや否や、キングがノブに突進した。直線的なスピードは速い。ノブは体当たりを食らい弾き飛ばされる。


「ノブさん…」

「心配するな、安心して見ていろ」


ランマは、自分がスタミナを削ったと思っていたキングが、まだあれほどのスピードが出せるのかと驚いて心配そうな声を出した。


「ありゃ、ワザと避けなかったな…」


さすがバトルジャンキーのヤスケ。いいところを見ている。あのスピードを(かわ)せないノブじゃない。キングの出方を見た感じだ。ノブがニヤリと笑っているのが何よりの証拠だ。



キングが突っかかる。サイドステップで躱す。

キングが突っかかる。その巨躯を踏み台にしてジャンプ。後ろへ飛び退()く。

キングが突っかかる。避けずにカウンターで、その鼻先に爪パンチを当てる。


ノブの戦い方は実に多彩だ。



「すげぇ…」


ヤスケから驚嘆の声が漏れるが、ノブの実力を知っている俺は驚かない。


俺は茶々丸時代にテレビで格闘技や球技を観て、フェイントやストップ&ゴーといった動きを覚えた。もちろん当時は実践することはなかったが、ノブと旅をしている間に、そんな動きを取り入れた鍛錬を飽きることなく続けてきたんだ。なんたって時間は腐るほどあったからね。



「それにしてもキングの攻撃は一辺倒だな、頭悪いんじゃないか」


ヤスケの言葉はもっともだ。おそらく、キング(あいつ)は格下の相手にああやって突っかかり、倒れたところを噛んだり引っ搔いたりして勝ってきたんだろう。実力が自分と同等以上の相手と戦った経験が無いヤツの戦い方だ。



「ぐふぅ…ぐふぅ…」


キングは歯を剝いて毛を逆立てるが、ノブの度重なる攻撃に息が上がり足元もフラフラしている。ランマがスタミナを削ってくれた効果が出たようだ。


隙をついてノブが突進し、鼻先に爪パンチを当てようとした瞬間、キングがよろけて倒れた。タイミングをずらされた格好になってしまったノブはキングに捕まり耳に噛みつかれる。


「ぐぁっ!」


思わず声を漏らしたノブはキングの肉球に噛みつき、辛うじて逃れた。



「ノブ、川だ! 水の中へ行け!!!」


俺は叫んだ。俺たちにとって川は漁場であり遊び場だ。慣れ親しんだ水の中には必ず勝機があるはず。



痛みを堪えて水辺まで走るノブを、キングがよろけるようにして追いかける。

振り向きざま、前足で水を(すく)ってキングの顔にかける。

視界が奪われたキングを躱して後ろに回り、水の中へ突き飛ばす。


キングの背中の上で何度も跳ねて、その度に水の中へ顔を沈める。



ぐったりとなったキングは水から這い出して腹を出した。完全決着...



「おい、キング。わかってるな」

「ぁぁ…負けだ…」


しばらくの間、その場を静寂が支配した。



ようやく立ち上がったキングは、周りを見渡すと振り絞るように叫んだ。


「俺はこの町を出て行く。みんな付いて来い!」


誰も何も言わない。暴力で無理やり従えさせられていただけなのに、そんなことさえもわからないキングに俺は少しだけ同情した。



「そうか…」


キングはゆっくりとその場からいなくなった。

キングは文字通り、裸の王様だった。




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