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第33話 ミッション

その猫はうつ伏せになって気持ちよさそうに寝ていたが、トウキチが近づいていく足音に目を開け、寝転んだままを睨みつけた。


「トウキチか、最近顔を出していないから他の猫がブツブツ言ってたぞ」

「ぁっ、ぃぇ、いろいろあったもんで…」

「お前は俺の飯当番だよな、しっかり働けよ!」

「……」

「おぃ! 返事は?」


はっきりしないトウキチの態度に対して、明らかにイラついている。


「あっ、そうそう、キングさん。このチビが変なことを言うもんで連れてきたんですよ」

「なんだ、そのチビは?」


こいつがキングか...薄いグレーとホワイトの毛にノブさんよりだいぶ大きいビア樽のような体。その体から滲み出る威圧感が半端ない。ランマは腹に力を込めた。


「お前がキングか。強いっていう噂だが、俺の兄貴のほうが絶対強いぜ」

「ぁん!?」

「お前なんか瞬殺だろうな。悔しかったら兄貴の所まで来てみろよ」

「うるせい。俺に用事があるんだったら、そいつを連れて来い」

「へ~ ビビッてるんだ。こりゃ町中の猫に教えてやらなきゃな」

「なんだと!!!」


「キングさん、こんなヤツに舐められちゃいけないっすよ」


トウキチがキングをけしかけると、キングは立ち上がってランマを威圧する。



「連れて行ってやるから付いてこい」


そう言いながらランマは駆け出した。キングはその姿を追いかける。


(よし、挑発に乗ってきた)



俺はミー助さんとノブさんに(オス)にしてもらった。誇りを持つことを教わり、一緒に旅に出て生きていく術を教わった。ノブさんにもたくさん鍛えてもらった。そのノブさんがこの地で生きるために戦おうとしている。こんな俺でも役に立つことがあるんだったらなんでもするつもりだ。



走るのはランマのほうが早そうだ。キングが追いつきそうで追いつけないくらいの距離を保ちながらスピードを調整する。砂利道を走り、畦道(あぜみち)を走る。足場の悪い所を選んでできるだけ走る距離を稼ぐ。



「小僧、いったいどこまで行くんだ!?」


だいぶ走り息が苦しくなった頃、後ろからキングが叫んだ。ランマは少しだけ速度を緩める。


「なんだ、俺の走りに付いてこれないなんて情けないな。兄貴と戦うのを止めるか? 憶病なヤツだな」

「なにを!」


怒りをにじませた顔のキングを見て、今度は山道に向かい獣道を走る。走りにくい上に小枝が体に当たる。挑発しようと後ろを振り返った拍子に太い枝が顔に当たり、体が弾き飛ばされて草の上にゴロゴロと転がった。


怒り狂ったキングが、ランマの上にのしかかってきた。まるで食い殺されそうなほど顔が近づいたその時…


 ダンッ!!


キングの体にトウキチが体当たりをしてきた。トウキチも必死になって二匹についてきたようだ。


「トウキチなにすんだ、てめえから先に殺してやるぞ」

「キングさん、違うでしょ。あのチビの兄貴分ってヤツと戦わないと…」


苦しそうな顔をしながら、体を張ってキングを止める。その間にランマは逃げるように距離を取りさらに煽る。


「自分より弱いヤツしか相手にしないヘタレ野郎、早く来いよ!」


ランマは更に走る、走る、走る……



息も絶え絶えにようやく河原にたどり着くと、そこには心配そうな顔をした仲間が待っていた。



「ランマ、よく頑張った。ミッションコンプリートだ」


ミー助が声をかけて横に並んだ瞬間、ランマはその場にへたり込んだ。少し離れた所にいるノブも嬉しそうな顔で無言で頷いた。



「キング! 遅かったじゃねぇか。待ちくたびれて寝るところだったぜ」


間髪を入れずにやってきたキングに向かって、今度はノブが挑発する。


「なんだ、お前は?」

「俺はノブ。この地を()べる猫だ。サシの勝負受けてもらうぜ」

「なに言ってんだ、頭おかしいんじゃねぇのか。てめえは殺す!!」



ランマを追いかけて長い距離を走らされたはずだが、それでも闘志は失わない。歯を立てて威嚇するように、キングがゆっくりとノブに歩み寄った。




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