第29話 ブライ
俺たちが連れていかれたのは小さな境内。人の気配もなく静かな所だが、ガラの悪そうな猫が何匹かバラバラになって俺たちの様子を伺っている。
古びた本殿の前で神経質そうな黒猫が、俺たちの姿を見ると下品な顔で笑った。両隣には、さっき俺たちにちょっかいを出してきたメス猫を侍らせている。
「お前がブライか」
「よくご存じで、ワタシも有名になったものだ、ホホホ…」
「手の込んだ事をして、俺たちに何の用だ」
「最近、お前さんたちがこの辺の木っ端どもを集めて遊んでいるという話を聞いてね。やめてほしいワケよ」
「そんなの俺たちの勝手だろ」
「いいえ、それでなくてもキング一派の動きが気になるのに、それ以外の集まりはこの町に不要なんだよ。ウザイのさ」
隣にいるノブを見ると、怒りを通り越して呆れたような顔をしている。
「ワタシの配下になるか、とっととこの町から出て行くか、好きなほうを選びなさい」
おやおや、ずいぶんと上から目線だこと。さすがに我慢できなくなったのか、ノブが一歩前に出る。
「どっちも嫌だね、お前が俺に指図するんじゃねぇっ!」
「そう…これを見ても同じことが言えるかしら」
二匹の猫に小突かれるようにしてランマが現れた。可哀そうに、少し傷んでいるようだ。ノブの身体が怒りに震えてるのがわかる。もちろん、俺も怒りマックスだ。
「ランマ、すぐ助けてやるからな。少しだけ我慢しろ」
「アナタの相手はワタシじゃないの。ヤスケ、殺ってください」
ブライに飛び掛かろうとしたノブの前に、ハチワレ猫が面倒くさそうにのそのそと歩いてきた。締まった体躯に隙を見せないその様は、まるでバットマン。トウキチが言っていた強い猫ってこいつの事だな。
「ミー助、こいつの相手は俺だ。お前はランマのことを頼む」
ノブがヤスケと対峙する。二匹から放たれる凄まじい殺気に廻りの猫が怯んだ瞬間、俺はランマの所へ駆け出した。
「ランマ、本気で戦え! 遠慮しなくていいぞ!」
ここにいるようなザコ猫にやられるようなランマじゃない。おそらくトウキチを庇ったのだろう。
「お前ら、死にたくなかったらここから出て行け!」
俺は、できればここにいる猫を傷つけたくなかったので、戦意を見せているやつだけに突っかかっていった。もちろん、ランマも俺の意を汲んで逃げる猫までは相手にしない。
境内が静かになるまでそれほど時間はかからなかった。
メス猫は真っ先に逃げ出し、ビビった猫とダメージを受けた猫もこの場からいなくなった。
この場に残ったのは、まだ睨みあったままのノブとヤスケ、そしてそれを見守る俺とランマ、ブライだけになった。




