第02話 道の駅にて
駐車場の奥には営業時間の終了した土産物屋。街灯と、隣接しているコンビニの明かりのおかげで周辺はそれほど暗くない。
ふと見ると、土産物屋の前に置かれているベンチに女性二人が腰掛けて、何か食べながら話している。
「あと少しで着きそうだね、ホテル」
「行っても、シャワーして寝るだけだけどね」
「高級旅館に泊まって、豪華な食事みたいな旅をしてみたいものだわ」
「そういうのは、彼氏ができたらすればいいの」
日和と同年代くらいか。なんだか楽しそうだね。ドライブ旅行の途中で、コンビニ弁当で夜ご飯って感じかな。
「あら、可愛い猫ちゃんがいる」
「おいで、おいで」
俺のことに気が付いたようだ。こんな感じの女性なら警戒する必要もない。俺は誘われるままにちょこちょこと歩いていき、二人の前にお座りをした。
「ふふ、お行儀のいい猫ちゃんね、これ食べるかな?」
そう言いながら、サンドウィッチの端をちぎって地面に置いてくれた。ありがたいじゃないか。遠慮なくいただく。もちろんガツガツしないでお上品にね。
「美味しそうに食べるわね。じゃ、もう少しあげたら行くね」
「バイバイ、猫ちゃん」
俺は、彼女たちの旅の安全と良縁を願いながら、赤い小さな車が駐車場から出ていくのを見送った。
「おぃ、小僧!」
嫌な声が聞こえたので振り返った瞬間、なにかが飛び掛かってきた。
反射的に身体を躱し、そいつから少し距離を置く。
アンドレほどじゃないが、でかい灰色の猫だ。
「なにすんだっ」
「ここは俺の縄張りだ。お前だけいい思いしてんじゃねぇ」
そう言いながらまた飛び掛かってくるが、こんなスピードじゃ簡単に躱せる。
「俺が、お姉さんたちにおやつを貰ったのが気に入らないのか?」
「そうだよっ」
「それで俺にケンカを売って、お前の腹が膨れるのか?」
「うっ…うるさいっ!」
灰色猫が飛び掛かってくる。俺が身体を躱して距離を置く。
飛び掛かってくる。身体を躱す。
飛び掛かってくる。身体を躱す。灰色猫が怒っている。
飛び掛かってくる。身体を躱す。俺もだんだん腹がたってきた。
「やめとけ、グレ」
迫力のある声がして、黒い猫がゆっくり歩いてきた。身体はそれほど大きくはなく、明らかに老いている。だが、眼光は鋭くとにかく隙が無い。初めてジャンプを見た時と同じ緊張感が走る。これ、絶対強い猫じゃん。
「ゴン爺…」
驚いたように灰色猫が呟いた。
「そいつは、お前なんかよりよっぽど強いぞ。いいからやめとけ」
「だって、このチビ逃げてばっかりだぜ」
「本気で逃げるんなら、とっとと走って遠くまで行ってるだろ。誰にでもすぐ突っかかっていくのはお前の悪い癖だ。儂が話すからお前はあっちへ行ってろ」
「わかったよ、ゴン爺…」
「こんな所じゃ人目につく、付いて来い」
老猫が静かに言って、ゆっくりと歩き出した。俺も無言で後に続く。




