第13話 命を賭してでも
梅雨が明けてから旅を再開したが、暑い日が多くなってきた。いよいよ夏到来だ。
観光案内の看板で見た太い道路を歩いているが、だんだんと海から離れ、今は山の中を通っている。
昼間は暑いので、道路沿いの草むらで休んだり小川で水遊びしたりする。そして、日が落ちる頃から歩き始める。もちろん、車を避けるようにできるだけ道路の端のほうを歩く。
今日の昼間は案外涼しく、十分身体を休ませることができたので、いつもより早めに歩き始めることにした。
夏の日の夕方ってなんだかテンション上がるんだよね。少し下り坂になり、俺とノブは追いかけっこをしながらはしゃいでいた。
前を見るとベビーカーを押している女性がいた。散歩か買い物かな。顔は見えないが、中に乗っている赤ちゃんに楽しそうに話しかけている。
俺たちは走ってその横を通り過ぎようとした。その時、思いがけないことが起きた。
「きゃっ」
後ろからやってくる俺たちに気が付いていなかった女性は、驚いてベビーカーから手を放してしまったんだ。
言い訳をするつもりはないが、俺たちは決して驚かせるつもりはなかった。でも、最悪の結果となった。
下り坂だったのが禍した。慌てて追いかけようとした女性は転んでしまい、その手が放れたベビーカーは、少しずつスピードを増しながらあっちへ行ってしまう。
「ノブ!! まずいぞ!!」
「追いかけろ!!」
俺たちは必死になって走り、ベビーカーにすぐ追いついた。だが、それを掴む手がない。
(くそ、くそ!!)
ベビーカーと並走する。何回も言うが、俺は人間のことが好きだ。だから、自分であっても他の猫であっても、人間に迷惑をかけることは本当に嫌なんだ。そんな俺が、よりによって女性を転ばすことになった上に、赤ちゃんを危険な目に合わせてしまっている。
(どうする)
(どうする)
(どうする)
(そうだ!!)
(よし、腹をくくれ!!)
こうなったら、俺の身体でベビーカーを止めればいいんだ。ベビーカーがぶつかろうが身体の上に乗ってこようが死ぬまでのことはない。多少痛いのを我慢すればいいだけのこと。
(僕は死にましぇん)
脳内にそんなフレーズを聞きながら、ベビーカーの前に思いっきりダイブした。
ドンッ!
俺の上に乗ってきたのはノブの身体…
「俺がやるよ」
耳元で聞こえるノブの声に目をつぶった…
…
……
………
…………
ベビーカーは止まったようだが、俺たちの身体に衝撃はない。
「ママ、大丈夫かい。散歩がてら二人のことを迎えに来たんだ」
「パパ、ごめんなさい。猫に驚いて菜乃香のことを放しちゃったの…」
「二匹の猫? 一生懸命に菜乃香のことを止めようとしていたみたいだ」
「あれ? どこへ行っちゃったのかしら?」
俺たちは道路沿いの草むらの中で、若い夫婦の会話を聞いていた。
「ミー助、ギリセーフだったな。ママも怪我がなかったみたいだし」
「よかったよ。ところでお前、なんで俺の上に乗ったんだよ」
「だってお前は命の恩猫だからさ、なにか借りは返すって言っただろ」
「そんなこと言ったか? 忘れちゃったさ」
「それに、お前にだけいいカッコさせるわけにはいかないしな」
いやいや、ノブこそカッコいいぞ。アルマゲドンのブルース・ウィリスみたいだよ。
【猫への教訓】
人間の脇を通り過ぎる時には、驚かせないように注意しましょう。




