第12話 魂の兄弟
リュウガは弱々しい声でゆっくり話し始めた。
「儂も昔は兄弟猫がいたんじゃ」
「俺たちは兄弟じゃないぜ」
「いや、血は繋がっていなくても兄弟と言うのじゃ。『魂の兄弟』とな」
リュウガは京都からやって来た。京都と言っても、お寺のたくさんある市街ではなく、『天橋立』の近くから。
「儂の兄弟猫の『タイガ』は飼い猫でな、それでもノラ猫の儂と馬が合った」
二匹とも人間の物を盗ったり悪さをしたりするのは嫌いで、地猫たちとも仲良くしたいという気持ちが通じ合った。
しかし、晩年となり、死期を悟って流れることを決意したと言う。
「タイガはその時が来れば飼い主に弔ってもらえるだろうが、儂は無様な姿を晒すしかない。だがな、考えようによっては悪いことばかりではない。ノラ猫は住む所を選べるが、逝く所も選べるのじゃ」
『予もいずれの年よりか、片雲の風にさそわれて、漂泊の思いやまず』
リュウガは寂しそうに呟いた。
別れを告げた時、タイガは何も言わずリュウガのことを止めなかったと言う。あれ、これって俺が旅立つと告げた時のテツと同じじゃないか。思い出したら胸が熱くなってきた。
目の前の老猫は確かに弱々しい。だが、細めた目には陰りはなく、長い間ノラ猫としての誇りを捨てずに生きてきたのがわかった。
俺とノブで食料を確保して食べさせたが、リュウガは日に日に衰弱していった。
ー ある朝
「今日は雨が降っていないようじゃな」
「そうだね、雨が屋根に当たる音がしない」
「ミー助、ノブ、ちょいと出かけよう」
ここのところ食欲も落ちてしまっていたリュウガは、歯を食いしばるようにして立ち上がりゆっくりと歩き出す。俺たちは無言でリュウガの後に続いた。
人気のない原っぱまで来て、ふぅと大きな息をしたリュウガが草を指した。
「この草は『猫じゃらし』じゃ。もう少ししたらもっと大きくなって食べられるからな、覚えておけ」
「うん、わかった」
「儂はここから一匹で還る。最後の最後にお前たちに会えて良かったわ」
嬉しそうに笑っているリュウガの姿が涙でぼやけてしまう。俺とノブは、リュウガが草むらの向こうに消えて行くのを黙って見ていた。
「ミー助、天橋立って知ってるかい?」
「あぁ、龍が天に昇る所だ」
「なんだ、それすげぇな」
「リュウガも天まで昇れるといいな」
「猫じゃらしで飢えを凌ぎながら、タイガって猫に会いに行こうぜ」
俺の目的地は静岡だが、方向は同じだ。経由地が決定した。




