【SELECT】
夜になった。
同じ駅前広場。
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人は、明らかに前よりも増えていた。
「……やばいでしょ、これ」
直人が呟く。
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【同時接続:182,440】
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スマホの光が、無数に揺れている。
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「いいね」
黒瀬ミカが、小さく笑う。
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「ちゃんと“戻ってきてる”」
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その言葉通りだった。
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一度、この場に来た人間。
その何割かが、またここにいる。
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理由は、本人たちも分かっていない。
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ただ――
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「来なきゃいけない気がして」
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そう言う。
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群衆の中。
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あの女がいる。
書き換えられた“正しい私”。
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スマホを握りしめ、前を見ている。
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「……」
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表情は穏やか。
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迷いも、不安もない。
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ただ、待っている。
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「ねえ」
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隣の知らない誰かに話しかける。
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「これ、すごいよね」
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相手も、頷く。
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「分かる。なんか……ちゃんとした自分になれる感じ」
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“共有されている”。
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同じ感覚。
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同じ方向。
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同じ“完成”。
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ステージ。
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永瀬が、その光景を見ている。
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「……増えてるな」
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「当然よ」
遥が答える。
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その声は、もう揺れていない。
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「前回の影響個体が、再来してる」
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直人が顔をしかめる。
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「影響個体って……」
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「適切な表現でしょ」
遥は淡々と言う。
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「再現性の確認には最適」
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永瀬が、わずかに笑う。
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「いいな、それ」
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ミカが、マイクを持つ。
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「それじゃ」
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ざわめきが、静まる。
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「もう一回、やるよ」
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歓声。
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期待。
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恐怖は、もうほとんどない。
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代わりにあるのは――
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“欲”。
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【ねえ】
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ミカの声。
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【誰にする?】
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その瞬間。
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群衆の中の彼女が、目を閉じる。
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(……選ぶ)
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もう、迷いはない。
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(前の私じゃない)
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(もっと、ちゃんとした私)
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イントロ。
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音が流れる。
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【間違えたままの履歴】
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彼女の呼吸が、整う。
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【消せないまま増えていく】
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“前の違和感”が、少しだけ戻る。
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(まだ足りない)
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【選ばなかった未来が
今もどこかで息をしてる】
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思い出せない記憶。
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でも、それが“不要”だと分かる。
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【名前を呼ばれるたびに
違う誰かみたいでさ】
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周囲の人間も、同じように静かになる。
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“選ぶ準備”。
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【ねえ、やり直せるなら
どこから壊せばいい?】
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彼女の手が、わずかに震える。
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(全部)
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(いらない)
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【正解じゃなくていいから
“今じゃない私”にして】
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涙が、ひとつ落ちる。
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でも。
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悲しみじゃない。
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解放。
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【REWRITE
全部書き換えて】
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サビ。
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その瞬間。
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彼女の中で、“何か”が弾ける。
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「……あ」
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視界が、白くなる。
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【この記憶も感情も
間違いのままでいい】
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“前の自分”が、剥がれていく。
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何層も。
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何枚も。
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REWRITE REWRITE
今の私いらない
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「……いらない」
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口に出る。
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ねえ、別の誰かで
続きを始めて
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そして。
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“二度目の書き換え”が、完了する。
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目を開ける。
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「……」
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景色が、違う。
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音が、違う。
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自分が、違う。
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「……これでいい」
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微笑む。
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前よりも、ずっと自然に。
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前よりも、ずっと綺麗に。
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「……完璧」
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その言葉。
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ステージの上。
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永瀬の耳に、はっきり届く。
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「……」
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ゾク、とする。
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“精度が上がっている”。
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意図していないのに。
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いや。
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“望まれている”。
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壊れることを。
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変わることを。
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「……いいな」
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小さく、呟く。
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遥が頷く。
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「収束してきてる」
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「無駄が減ってる」
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ミカが、笑う。
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「でしょ?」
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ユラが、静かに言う。
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「面白くなってきたね」
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群衆の中。
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“完成した人間”たちが、同じ顔で笑っている。
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同じ目で。
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同じ温度で。
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同じ“正しさ”で。
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その光景は。
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あまりにも、綺麗で。
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あまりにも、歪だった。
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――次回、第10話
【FRAGMENT】




