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"ERROR"  作者: 色斑にじみ
10/13

【FRAGMENT】




最初に気づいたのは、“音のズレ”だった。


---


駅前広場。


ライブの熱が、まだ残っている。


人は散り始めているが、空気は冷めていない。


---


「……ねえ」


黒瀬ミカが、少しだけ首を傾げる。


---


「今、変なのいた」


---


永瀬が顔を上げる。


「何が」


---


ミカは、群衆の奥を見る。


---


「なんか……合ってない」


---


遥も視線を向ける。


---


「どこ」


---


「……あそこ」


---


人の流れの中。


一人の女が、立っている。


---


動いていない。


---


周囲は歩いているのに。


---


その場所だけ、切り取られたみたいに止まっている。


---


「……」


---


永瀬の目が細くなる。


---


「……行く」


---


近づく。


---


女は、俯いている。


---


「……おい」


---


声をかける。


---


反応が、遅れる。


---


「……あ」


---


ゆっくりと顔を上げる。


---


その目。


---


焦点が、合っていない。


---


「……私」


---


口が、動く。


---


「私、は――」


---


言葉が止まる。


---


「……誰?」


---


沈黙。


---


直人が小さく呟く。


「……おい、これ」


---


女の手が、震えている。


---


「違う」


---


ぽつりと、言う。


---


「違う、違う、違う」


---


声が、少しずつ重なる。


---


「私、ちゃんと……選んだのに」


---


遥の表情が変わる。


---


「……失敗体」


---


「は?」


直人が振り向く。


---


「REWRITEの……不完全適用」


---


女が、頭を押さえる。


---


「……思い出せない」


---


「でも、ある」


---


「消えてない」


---


「混ざってる」


---


言葉が、バラバラに出る。


---


「やめて」


---


急に顔を上げる。


---


「見ないで」


---


その瞬間。


---


表情が、変わる。


---


穏やかな笑顔。


---


「……大丈夫です」


---


普通の声。


---


「ちょっと疲れてるだけで」


---


直人が息を呑む。


---


「……今の見たか?」


---


次の瞬間。


---


また崩れる。


---


「違う!!!」


---


叫ぶ。


---


「これじゃない!!」


---


「こんなの私じゃない!!」


---


膝をつく。


---


頭を打ちつける。


---


「戻して」


---


「戻してよ」


---


「ちゃんと選んだのに」


---


「なんで、残ってるの」


---


永瀬の目が、わずかに見開かれる。


---


「……残ってる?」


---


遥が答える。


---


「前の人格」


---


冷静に。


---


「完全に上書きできてない」


---


女が笑う。


---


泣きながら。


---


「ねえ」


---


こちらを見る。


---


「どっちが本物?」


---


誰も答えない。


---


「ねえ」


---


一歩、近づく。


---


「私、ちゃんと“完成”してる?」


---


沈黙。


---


その問いは。


---


あまりにも重い。


---


「……」


---


永瀬が、ゆっくり口を開く。


---


「……不完全だな」


---


その一言。


---


女の動きが、止まる。


---


「……そっか」


---


小さく呟く。


---


「じゃあ」


---


笑う。


---


「もう一回やればいいよね?」


---


空気が凍る。


---


「やめろ!」


直人が叫ぶ。


---


だが。


---


女はスマホを取り出す。


---


震える手で、操作する。


---


「もう一回……ちゃんと選べば」


---


画面。


---


「REWRITE」


---


再生。


---


「ねえ」


---


「誰にする?」


---


その瞬間。


---


女の表情が、歪む。


---


二つに。


---


笑っている顔。


泣いている顔。


---


重なっている。


---


「やめ――」


---


言葉は、届かない。


---


音が、入り込む。


---


「私、は――」


---


「違う、私は――」


---


「これでいい――」


---


声が、三重に重なる。


---


体が、揺れる。


---


輪郭が、ブレる。


---


「……っ!」


---


次の瞬間。


---


“崩れた”。


---


消えたわけじゃない。


---


でも。


---


そこにあった“人間”は、


もうどこにも存在していなかった。


---


ただ。


---


“何か”が、そこに残っている。


---


形は、人間。


---


でも。


---


それはもう、“誰でもない”。


---


「……」


---


沈黙。


---


誰も、動けない。


---


ミカだけが、静かに呟く。


---


「……失敗だね」


---


遥が、ゆっくり言う。


---


「条件が足りてない」


---


「干渉が重なった」


---


「だから、崩壊した」


---


分析。


---


ただ、それだけ。


---


永瀬は、その“何か”を見る。


---


興味深そうに。


---


「……なるほど」


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小さく、笑う。


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「ノイズか」


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直人が振り向く。


---


「……お前、今それを」


---


「排除すればいい」


---


即答だった。


---


その言葉で。


---


完全に、境界が消えた。


---


ユラが、静かに笑う。


---


「いいね」


---


「やっと“バグ”が出てきた」


---


その声は、どこか嬉しそうだった。


---


「ここからだよ」


---


「本当に面白くなるのは」


---


――次回、第11話

【INTENTION】

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