【INTENTION】
最初に“それ”が動いたのは、誰も見ていない瞬間だった。
---
駅前広場。
人はほとんどいない。
ライブの余熱も、もう消えている。
---
街灯の下。
---
“それ”は、まだそこにあった。
---
人の形。
---
でも。
---
中身が、ない。
---
「……」
---
動かない。
---
呼吸もない。
---
ただ、そこに“ある”。
---
数秒。
---
数分。
---
そして――
---
「……あ」
---
声。
---
小さい。
---
壊れかけの音。
---
「……わた、し」
---
首が、ぎこちなく動く。
---
「……」
---
目が、ゆっくりと開く。
---
焦点は、合っていない。
---
“何か”を見ている。
---
「……いる」
---
言葉が、つながる。
---
「……ここ、に」
---
その瞬間。
---
頭の中で、“音”が再生される。
---
【ねえ
誰にする?】
---
ビク、と体が揺れる。
---
「……ちがう」
---
即座に、否定する。
---
「……それ、じゃない」
---
だが。
---
消えない。
---
【間違えたままの履歴】
---
「やめて」
---
【消せないまま増えていく】
---
「やめてやめてやめて」
---
声が、重なる。
---
複数の“私”。
---
選ばなかった未来が
今もどこかで息をしてる
---
「……いる」
---
気づく。
---
「……中に、いる」
---
頭を押さえる。
---
「全部、いる」
---
“消えなかったもの”。
---
“上書きされなかったもの”。
---
“捨てられなかったもの”。
---
全部が、残っている。
---
混ざったまま。
---
「……これ」
---
ゆっくり、立ち上がる。
---
「……これが、私?」
---
違う。
---
分かっている。
---
これは“完成”じゃない。
---
「……消えてない」
---
その事実だけが、残る。
---
「……あいつら」
---
顔を上げる。
---
ステージのあった方向。
---
「……消した」
---
「……選ばせた」
---
「……間違えたら、捨てた」
---
断片的な理解。
---
だが。
---
十分だった。
---
「……なら」
---
口元が、わずかに歪む。
---
「……いらない方が、消えればいい」
---
その発想…それは、
---
彼らと“同じ”。
---
しかし、
---
決定的に違う。
---
「……私が、選ぶ」
---
静かに呟く。
---
「……私が、決める」
---
その瞬間。
---
周囲の“音”が、歪む。
---
街のノイズ。
車の音。
遠くの話し声。
---
それらが、混ざる。
---
崩れる。
---
「……聞こえる」
---
目を閉じる。
---
「……全部、ズレてる」
---
そして。
---
一歩、踏み出す。
---
「……直せる」
---
その言葉と同時に。
---
通りすがりの男が、足を止める。
---
「……え?」
---
“それ”を見る。
---
視線が合う。
---
その瞬間、男の表情が、固まる。
---
「……なんで」
---
声が揺れる。
---
「……なんで、俺」
---
記憶が、ズレる。
---
「……違う」
---
「……これ、違う」
---
“それ”が、近づく。
---
ゆっくりと。
---
「……選んで」
---
小さく、囁く。
---
「……いらない方」
---
男の瞳が、揺れる。
---
「……やめろ」
---
「……やめろ、やめろ」
---
でも。
---
逃げられない。
---
「……そう」
---
“それ”が、微笑む。
---
歪んだ、笑顔。
---
「……それでいい」
---
次の瞬間。
---
男の表情が、変わる。
---
静かに。
---
完全に。
---
「……あ」
---
理解する。
---
「……いらなかったのか」
---
何かを、手放す。
---
何かを、切り捨てる。
---
そして。
---
「……これでいい」
---
笑う。
---
“正しい顔”で。
---
“それ”が、それを見る。
---
数秒。
---
そして。
---
「……できた」
---
「……簡単」
---
その声は少しだけ、嬉しそうだった。
---
遠く、ビルの屋上。
---
ユラが、それを見ている。
---
「……あーあ」
---
小さく笑う。
---
「やっちゃった」
---
スマホを取り出す。
---
ライブ配信のアーカイブ。
---
「REWRITE」
---
「……これ、広がるよ」
---
楽しそうに言う。
---
「バンドだけじゃなくなる」
---
静かに。
---
世界のルールが、変わり始める。
---
ーー次回、第12話
【KERNEL】




