【KERNEL】
永瀬率いる404 NOT FOUNDは
野外フェス会場で演奏する事になった。
始めは永瀬を止めようとしていた遥も、
今は彼等の賛同者。
書き換えられた彼女は
今まで以上に敏腕マネージャーだった。
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広すぎる空間。
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ステージの光が、空を切り裂いている。
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数万人。
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人、人、人。
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「……俺たち、無名のバンドだったんだぜ」
直人が呟く。
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【同時接続:1,204,882】
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「もう“バンド”じゃないわね」
「現象として拡大してる」
遥が言う。
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その声は、冷静すぎた。
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永瀬は、ステージの上から見下ろす。
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圧倒的な数。
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「……静かだな」
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異様だった。
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誰も騒いでいない。
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待っている。
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“何かを受け取る準備”をしている。
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ユラが、小さく笑う。
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「来てるよ」
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視線の先。
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前方エリア。
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“それ”がいる。
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いや。
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一体じゃない。
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複数。
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“揺れている存在”。
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完全でも、不完全でもない。
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「……進化してる」
遥が呟く。
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「REWRITEに適応してる個体がいる」
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ミカがステージに立つ。
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「ねえ」
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その一言で。
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数万人の意識が、揃う。
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「始めるよ」
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歓声は、ない。
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代わりに。
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“期待”だけが、膨らむ。
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「さあ」
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ミカの声が、落ちる。
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「貴方を、認めてあげる」
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その瞬間。
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会場全体が、“止まる”。
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風の音すら、消える。
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低音。
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新曲【KERNEL】が、始まる。
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【私の中に居座る"ワタシ"
この存在の条件を
今ここで決めていい?】
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音が、波のように広がる。
前方の“それ”が、震える。
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「……また、来た」
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前回とは違う。
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逃げない。
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「……今回は」
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顔を上げる。
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「……選ばない」
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【KERNEL】
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その一言で。
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“選択の意味”が消える。
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【基準を書き換えて
ねえ、“私である理由”
それすらが選択肢】
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数万人が、同時に呼吸を止める。
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思考が、揃う。
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「……っ」
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失敗体が、歪む。
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「違う」
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「違う、違う」
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“否定する理由”が、見つからない。
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【境界なんて曖昧でいい
輪郭はあとからついてくる】
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周囲の人間が、静かに笑う。
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同じ顔で。
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同じ温度で。
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「……これでいい」
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“それ”の声が、揺れる。
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「……これで」
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崩壊が、止まる。
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完全ではない。
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“成立する”。
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【壊すことも、創ることも
同じ位置にあるから】
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ステージ。
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永瀬の視界が、わずかに歪む。
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(……重い)
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この曲。
“自分にも来てる”。
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「……っ」
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一瞬、指が止まりそうになる。
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ミカが、ちらりと見る。
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笑う。
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(逃げるな)
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その目が言っている。
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【貴方を、認めてあげる】
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その瞬間。
“それ”が、完全に止まる。
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そして。
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「……私は」
「……これでいい」
矛盾した存在が、固定される。
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同時に。
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会場全体が、同じ結論に至る。
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「……これでいい」
「……これでいい」
「……これでいい」
波のように広がる。
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【私の中に居座る"ワタシ"
この名前も存在も
意味を与え直しましょう
KERNEL】
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世界が、揃う。
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終わり。
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音が、消える。
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静寂。
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数万人。
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誰も、動かない。
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ただ。
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“納得している”。
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「……成功だ」
永瀬が呟く。
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遥が頷く。
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「完全に支配下」
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ミカが、観客を見渡す。
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「ねえ」
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小さく。
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「気持ちいいでしょ?」
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誰も答えない。
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ただ全員が、同じ顔で笑っていた。
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空。
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音が消えたはずなのに。
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まだ、何かが響いている。
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見えない波が、街の外へと広がる。
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もっと遠くへ。
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もっと広く。
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静かに。
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確実に。
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「……もう止まらないね」
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ユラが、楽しそうに言う。
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その言葉通り。
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これはもう、“ライブ”ではない。
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“書き換え”でもない。
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“定義”そのものだった。
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――次回、第13話
【DEFINE】




