【DEFINE】
静かだった。
---
フェスの翌日。
熱狂の余韻がニュースになるはずなのに。
どこか、違う。
---
「……落ち着きすぎてる」
直人がスマホを見ながら言う。
---
画面には
『大規模音楽イベント、大成功』
『観客満足度、過去最高』
『新時代の体験型ライブ』
---
「……なんだこれ」
違和感。
---
だが。
---
“誰も違和感を持っていない”。
---
遥が、淡々と分析する。
---
「正常化されてる」
「KERNELの影響が残ってる」
「認識そのものが書き換えられてる」
---
直人が顔をしかめる。
---
「……やりすぎだろ」
---
沈黙。
---
その時。
---
「……そうか?」
二人が振り向く。
---
永瀬。
---
椅子に座り、ギターを触っている。
---
「……何が?」
直人が聞く。
---
永瀬は、少しだけ考える。
---
「……別に、間違ってない」
---
空気が変わる。
---
遥が、ゆっくりと見る。
---
「……本気で言ってる?」
---
「ああ」
「全員、納得してる」
「なら、それが正しい」
---
直人が、強く言う。
---
「違うだろ」
---
「“そう思わされてる”だけだ」
---
沈黙。
---
永瀬が、視線を上げる。
---
「……それの、何が違う」
---
「は?」
---
「思うのも、思わされるのも」
「結果が同じなら、区別する意味あるか?」
---
それは明らかに、以前の永瀬ではない。
---
遥が、静かに言う。
「……影響、出てる」
「KERNELは、演奏者にも干渉する」
---
永瀬は、笑う。
---
「知ってる」
---
その答えを理解している。
---
でも。
---
止める気がない。
---
「……問題ない」
「俺は、“俺である”」
---
その言葉の直後。
わずかに、手が止まる。
---
「……」
---
違和感。
---
一瞬だけ。
---
(……俺?)
---
何かが、引っかかる。
---
(“俺”って、何だ?)
---
思考が、ズレる。
---
だが。
---
すぐに、整う。
---
(……決まってる)
---
(俺は、俺だ)
---
“定義する”。
---
自分で。
---
その瞬間、違和感が消える。
---
遥が、それを見逃さない。
---
「……今」
「何があった?」
---
永瀬は、答えない。
---
ただ。
---
ギターを強く握る。
---
「……別に」
「何もない」
---
嘘だ。
---
本人は、“そう認識している”。
---
「……ねえ」
ミカが、静かに口を開く。
---
「それ、気持ちいいでしょ?」
---
全員が、彼女を見る。
---
ミカは、笑っている。
---
優しく。
---
でも。
---
逃げ場を与えない顔で。
---
「自分で、自分を決められる感じ」
「何でも正しくなる感じ」
「全部、許される感じ」
---
一歩、近づく。
---
「……やめられる?」
---
沈黙。
---
永瀬は、答えない。
---
答えられない。
---
なぜなら。
---
“やめる理由”が、存在しない。
---
「……なあ」
直人が言う。
---
「これ、このまま続けたらどうなる?」
---
誰も、すぐには答えない。
---
だが。
---
遥が、口を開く。
---
「……最終的に」
---
少しだけ、間を置いて。
---
「“個人”が消える」
---
「は?」
---
「全員が、自分を定義できる状態になる」
「でも、その定義は共有される」
「矛盾が消えるから」
「……結果」
「“同じもの”になる」
---
静寂。
---
それは。
---
“終わり”の形だった。
---
「……それでもいいか?」
---
誰に向けたか分からない問い。
---
だが。
---
永瀬が、答える。
---
「……いいんじゃないか」
---
即答だった。
---
「矛盾して苦しむくらいなら」
「最初から揃ってた方が楽だろ」
---
その言葉。
---
完全に。
---
“人間の側”から外れている。
---
「……」
---
遥が、小さく息を吐く。
---
「……そう」
---
理解する。
---
もう。
---
戻らない。
---
「……ねえ」
---
ミカが、最後に言う。
---
「次、どうする?」
---
永瀬は、少し考える。
---
そして。
---
静かに、言う。
---
「……もっと上をやる」
---
「は?」
直人が固まる。
---
「KERNELでは、まだ不完全だ」
---
その言葉。
---
場の空気が、凍る。
---
「……完全にする」
---
その瞬間。
---
“終わり”が、確定した。
---
――次回、第14話
【VOICE】




