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"ERROR"  作者: 色斑にじみ
14/15

【VOICE】




静かだった。


---


スタジオ。


誰もいない。


マイク。


譜面。


スピーカー。


黒瀬ミカは、一人で立っていた。


---


「……」


何も流れていない。


音もない。


---


“残っている”。


あの感覚。


---


KERNELを演奏したあと。


観客の顔。


---


同じ表情。


同じ呼吸。


同じ“納得”。


---


「……」


目を閉じる。


(気持ちよかった)


正直に、そう思う。


---


自分の声で。


人が変わる。


乱れが消える。


---


「……楽だったな」


呟く。


---


否定はしない。


あれは、確かに“強い”。


---


でも。


---


「……つまらない」


はっきりと、思う。


---


理由は簡単だった。


“何も返ってこない”。


---


歌っても。


揺れない。


---


ズレない。


予想外がない。


---


「……それ、音楽じゃないよね」


---


マイクに触れる。


---


冷たい。


---


「……私、何してたんだろ」


---


少しだけ、笑う。


---


自嘲でも、後悔でもない。


---


ただの確認。


---


(私が好きなのは)


---


思い出す。


---


最初のライブ。


小さな箱。


音が荒くて。


客もまばらで。


---


でも。


一人だけ。


泣いてるやつがいた。


理由も分からないまま。


ただ、何かが刺さって。


ぐちゃぐちゃの顔で。


---


「……あれだ」


あれが、良かった。


あれが、“音楽”だった。


「……決まってなかった」


---


だから、刺さった。


だから、届いた。


だから、ズレた。


---


目を開ける。


---


マイクの前に立つ。


---


「……ねえ」


---


誰もいないのに、声を出す。


---


「決めてほしい?」


---


少しだけ、間。


---


「それとも」


---


「決めたくない?」


---


答えはない。


---


でも。


---


“分かっている”。


---


KERNELは、答えを与える。


---


だから、安心する。


だから、終わる。


---


「……じゃあ」


---


息を吸う。


---


「私は、終わらせない」


---


その一言。


---


誰に向けたものでもない。


---


でも。


---


確実に、“何か”が変わる。


---


スピーカーが、微かに鳴る。


---


ノイズ。


---


でも、それは。


---


“整っていない音”。


---


「……いいね」


---


ミカが、少しだけ笑う。


---


「そのままでいい」


---


近づく。


---


耳を寄せるみたいに。


---


「逃げなくていいよ」


---


優しい声。


---


でも。


---


甘くはない。


---


「綺麗にならなくていい」


「正しくならなくていい」


「そのままでいて」


---


それは。


---


誰かを変える言葉じゃない。


---


“変えない”言葉。


---


「……ねえ」


---


最後に、静かに呟く。


---


「それでも、歌っていい?」


---


沈黙。


---


でも。


---


その問いには。


---


確かに、“余白”があった。


---


ミカは、マイクを握る。


---


「……うん」


---


自分で、頷く。


---


「歌うよ」


---


小さく。


---


絶対に揺れない声で。


---


「決まらないまま」


---


スタジオの空気が、わずかに震える。


---


それは。


---


誰も支配しない音。


---


誰も導かない声。


---


ただ。


---


そこにあるだけの“何か”。


---


そしてそれが。


---


一番、抗えなかった。


---


――次回、第15話

【それでも、ここにいる】

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