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"ERROR"  作者: 色斑にじみ
15/15

【それでも、ここにいる】




夜。


---


404 NOT FOUNDは

ドームのステージに立っていた。


---


以前の永瀬達には到底考えられない

シチュエーション。


---


もう“前とは違う”。


---


圧倒的に広い会場。

超満員の観客。


---


それは、人の存在を消し、変えてしまう

悪魔のような楽曲達の仕業。


ERROR


REWRITE


そして、


KERNEL。


そして今夜、最後の曲を

ここで演奏する。


---


静けさが、重い。


---


「……来たな」


直人が呟く。


---


観客。


整っている。


呼吸も。


視線も。


期待も。


すべてが、揃っている。


---


「……綺麗すぎる」


遥が、小さく言う。


それは、褒め言葉じゃない。


---


「……壊すの?」


遥が聞く。


---


「違う」


---


答えたのは、永瀬だった。


---


「壊さない」


---


少しだけ、間。


---


「……戻さない」


---


その言葉。


自分でも、少し驚いている。


---


でも。


理解している。


---


「そのままにする」


---


それが。


---


今回やること。


---


ミカが、マイクの前に立つ。


---


光。


---


静寂。


---


「……ねえ」


声が、落ちる。


---


優しい声。


---


その声は


---


どこにも導かない。


---


「決めたい?」


---


誰も答えない。


---


“揃っている”。


---


KERNELの余韻。


---


全員が、同じ方向を見ている。


---


「……それとも」


---


少しだけ、間。


---


「決めたくない?」


---


その一言。


---


空気が、わずかに揺れる。


---


ほんの少しだけ。


---


ズレる。


---


永瀬の指が、弦に触れる。


静かな音。


UNDEFINEDが、始まる。


---


【名前をつける度に

消えていく気持ちがある】


---


その瞬間。


何人かが、顔を上げる。


わずかな違和感。


それを、“消さない”。


それを、“そのままにする”。


---


【それを“私”と呼ぶには

少しだけ曖昧すぎて】


---


呼吸が、揺れる。


---


一人。


---


また一人。


---


完全だったはずの“揃い”が、崩れ始める。


---


【触れた瞬間ほどけて

形を失っていくなら】


---


「……」


---


失敗体。


あの“それ”が、いる。


だが。


今回は、崩れない。


ただ、聞いている。


---


【そのままでいいと

どうして言えなかったのかな】


---


「……あ」


誰かが、呟く。


意味はない。


その“意味のなさ”が、残る。


---


【選ばなくていい

選べなくていい】


---


その言葉。


KERNELに染まった世界には、


“存在しないはずの選択”。


---


【答えにならないままで

ここにいてほしい】


---


その瞬間。


“外れる”。


---


一人。


---


また一人。


---


視線が、ズレる。


呼吸が、ズレる。


思考が、ズレる。


---


【UNDEFINED

私はまだ決まらない】


---


「……なんで」


観客の一人が、眉をひそめる。


「……分からない」


---


理解できない。


でも。


拒否できない。


---


【この矛盾もこの戸惑いも

全部連れて行って】


---


「……ああ」


別の誰かが、息を吐く。


「……それでいいのか」


---


KERNELでは、許されなかった感情。


それが。


“残る”。


---


【UNDEFINED

どこにも当てはまらない】


---


「……俺」


「……これでいいのか?」


問いが、生まれる。


---


答えは、与えられない。


だからこそ。


残る。


---


【だからこそここにいる

それだけでいい】


---


沈黙。


今度は違う。


“揃った沈黙”じゃない。


“バラバラの沈黙”。


---


誰かが泣く。


理由は分からない。


それでいい。


---


【“正しい”という音が

すべてを飲み込む前に】


---


永瀬の手が、止まりかける。


(……これ)


違う。


KERNELと違う。


---


制御できない。


広がり方が、読めない。


---


【こぼれ落ちたものを

拾い集めていたい】


---


「……やばいな」


直人が呟く。


「……戻ってきてる」


---


遥が、小さく息を吐く。


「……いや」


「戻ってない」


「初めて“そのまま”になってる」


---


【壊さなくていい

直さなくていい】


---


ミカの声。


---


どこにも縛られない。


ただ、置かれる。


ただ、残る。


ただ、響く。


---


【ただ、未完成のままで

ここにいてほしい】


---


その言葉。


失敗体が、目を閉じる。


崩れない。


整わない。


「……ああ」


小さく、頷く。


それでいい。


もしも

全部決められてしまったら


---


永瀬の中で、何かが揺れる。


(……決める)


(決めることが、俺だった)


(じゃあ)


(これは、何だ?)


---


【この揺れも

この迷いも】


---


(……これも)


(俺か?)


---


【もう二度と

感じられないよね】


---


手が、止まる。


完全に。


音が、一瞬途切れる。


---


会場が、息を飲む。


---


【ねえ

それでもいいの?】


---


問い。


沈黙。


長い。


深い。


---


永瀬は、目を閉じる。


(……決めろ)


(定義しろ)


いつもの声。


だが。


(……いや)


初めて、否定する。


---


「……分からない」


小さく、呟く。


誰にも聞こえないくらいの声。


確かに、言った。


---


【UNDEFINED

私はまだ決まらない】


---


ミカが、歌い続ける。


止めない。


導かない。


ただ、そこにいる。


---


【この記憶もこの痛みも

全部抱えていくよ】


---


永瀬の目から、何かが落ちる。


涙かどうかも分からない。


感情は音に溶けて、境界線は曖昧だ。


---


【UNDEFINED

どこにも属さなくていい】


---


「……俺は」


言葉が、出ない。


定義できない。


でも。


---


【名前のないこのままで

風に吹かれるまま】


---


風が、吹く。


ステージを、抜ける。


音が、揺れる。


観客が、揺れる。


世界が、揺れる。


---


【UNDEFINED

私はまだ決まらない】


---


誰も、揃っていない。


だからこそ。


“全員がいる”。


---


【この存在の意味なんて

なくてもいいんだよ】


---


永瀬が、顔を上げる。


ミカを見る。


ミカは、目を閉じて


ただ、歌う。


そのまま。


歌う。


---


【UNDEFINED

それでもここにいる】


---


音が、消える。


静寂。


もう、“同じ静寂”じゃない。


---


バラバラで。


揃ってなくて。


それでも。


誰も、消えていない。


---


「……」


永瀬が、立っている。


何者でもないまま。


確かに、そこにいる。


---


ミカが、最後に呟く。


「ねえ」


小さく。


優しく。


【ねえ、それだけで…】


---


その言葉。


誰も否定しない。


できない。


必要がないから。


---


「それでも、ここにいる」


その声は、確かに聞こえた。


——はずだった。


次の瞬間には、何も残っていなかった。


---


――






――






…再生ボタンは、まだ光っている。

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