【それでも、ここにいる】
夜。
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404 NOT FOUNDは
ドームのステージに立っていた。
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以前の永瀬達には到底考えられない
シチュエーション。
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もう“前とは違う”。
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圧倒的に広い会場。
超満員の観客。
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それは、人の存在を消し、変えてしまう
悪魔のような楽曲達の仕業。
ERROR
REWRITE
そして、
KERNEL。
そして今夜、最後の曲を
ここで演奏する。
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静けさが、重い。
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「……来たな」
直人が呟く。
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観客。
整っている。
呼吸も。
視線も。
期待も。
すべてが、揃っている。
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「……綺麗すぎる」
遥が、小さく言う。
それは、褒め言葉じゃない。
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「……壊すの?」
遥が聞く。
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「違う」
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答えたのは、永瀬だった。
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「壊さない」
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少しだけ、間。
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「……戻さない」
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その言葉。
自分でも、少し驚いている。
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でも。
理解している。
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「そのままにする」
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それが。
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今回やること。
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ミカが、マイクの前に立つ。
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光。
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静寂。
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「……ねえ」
声が、落ちる。
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優しい声。
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その声は
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どこにも導かない。
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「決めたい?」
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誰も答えない。
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“揃っている”。
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KERNELの余韻。
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全員が、同じ方向を見ている。
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「……それとも」
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少しだけ、間。
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「決めたくない?」
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その一言。
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空気が、わずかに揺れる。
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ほんの少しだけ。
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ズレる。
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永瀬の指が、弦に触れる。
静かな音。
UNDEFINEDが、始まる。
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【名前をつける度に
消えていく気持ちがある】
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その瞬間。
何人かが、顔を上げる。
わずかな違和感。
それを、“消さない”。
それを、“そのままにする”。
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【それを“私”と呼ぶには
少しだけ曖昧すぎて】
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呼吸が、揺れる。
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一人。
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また一人。
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完全だったはずの“揃い”が、崩れ始める。
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【触れた瞬間ほどけて
形を失っていくなら】
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「……」
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失敗体。
あの“それ”が、いる。
だが。
今回は、崩れない。
ただ、聞いている。
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【そのままでいいと
どうして言えなかったのかな】
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「……あ」
誰かが、呟く。
意味はない。
その“意味のなさ”が、残る。
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【選ばなくていい
選べなくていい】
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その言葉。
KERNELに染まった世界には、
“存在しないはずの選択”。
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【答えにならないままで
ここにいてほしい】
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その瞬間。
“外れる”。
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一人。
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また一人。
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視線が、ズレる。
呼吸が、ズレる。
思考が、ズレる。
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【UNDEFINED
私はまだ決まらない】
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「……なんで」
観客の一人が、眉をひそめる。
「……分からない」
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理解できない。
でも。
拒否できない。
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【この矛盾もこの戸惑いも
全部連れて行って】
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「……ああ」
別の誰かが、息を吐く。
「……それでいいのか」
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KERNELでは、許されなかった感情。
それが。
“残る”。
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【UNDEFINED
どこにも当てはまらない】
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「……俺」
「……これでいいのか?」
問いが、生まれる。
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答えは、与えられない。
だからこそ。
残る。
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【だからこそここにいる
それだけでいい】
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沈黙。
今度は違う。
“揃った沈黙”じゃない。
“バラバラの沈黙”。
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誰かが泣く。
理由は分からない。
それでいい。
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【“正しい”という音が
すべてを飲み込む前に】
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永瀬の手が、止まりかける。
(……これ)
違う。
KERNELと違う。
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制御できない。
広がり方が、読めない。
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【こぼれ落ちたものを
拾い集めていたい】
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「……やばいな」
直人が呟く。
「……戻ってきてる」
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遥が、小さく息を吐く。
「……いや」
「戻ってない」
「初めて“そのまま”になってる」
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【壊さなくていい
直さなくていい】
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ミカの声。
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どこにも縛られない。
ただ、置かれる。
ただ、残る。
ただ、響く。
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【ただ、未完成のままで
ここにいてほしい】
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その言葉。
失敗体が、目を閉じる。
崩れない。
整わない。
「……ああ」
小さく、頷く。
それでいい。
もしも
全部決められてしまったら
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永瀬の中で、何かが揺れる。
(……決める)
(決めることが、俺だった)
(じゃあ)
(これは、何だ?)
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【この揺れも
この迷いも】
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(……これも)
(俺か?)
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【もう二度と
感じられないよね】
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手が、止まる。
完全に。
音が、一瞬途切れる。
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会場が、息を飲む。
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【ねえ
それでもいいの?】
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問い。
沈黙。
長い。
深い。
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永瀬は、目を閉じる。
(……決めろ)
(定義しろ)
いつもの声。
だが。
(……いや)
初めて、否定する。
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「……分からない」
小さく、呟く。
誰にも聞こえないくらいの声。
確かに、言った。
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【UNDEFINED
私はまだ決まらない】
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ミカが、歌い続ける。
止めない。
導かない。
ただ、そこにいる。
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【この記憶もこの痛みも
全部抱えていくよ】
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永瀬の目から、何かが落ちる。
涙かどうかも分からない。
感情は音に溶けて、境界線は曖昧だ。
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【UNDEFINED
どこにも属さなくていい】
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「……俺は」
言葉が、出ない。
定義できない。
でも。
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【名前のないこのままで
風に吹かれるまま】
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風が、吹く。
ステージを、抜ける。
音が、揺れる。
観客が、揺れる。
世界が、揺れる。
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【UNDEFINED
私はまだ決まらない】
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誰も、揃っていない。
だからこそ。
“全員がいる”。
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【この存在の意味なんて
なくてもいいんだよ】
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永瀬が、顔を上げる。
ミカを見る。
ミカは、目を閉じて
ただ、歌う。
そのまま。
歌う。
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【UNDEFINED
それでもここにいる】
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音が、消える。
静寂。
もう、“同じ静寂”じゃない。
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バラバラで。
揃ってなくて。
それでも。
誰も、消えていない。
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「……」
永瀬が、立っている。
何者でもないまま。
確かに、そこにいる。
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ミカが、最後に呟く。
「ねえ」
小さく。
優しく。
【ねえ、それだけで…】
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その言葉。
誰も否定しない。
できない。
必要がないから。
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「それでも、ここにいる」
その声は、確かに聞こえた。
——はずだった。
次の瞬間には、何も残っていなかった。
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…再生ボタンは、まだ光っている。




