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"ERROR"  作者: 色斑にじみ
7/15

【REWRITE】



あの曲の"続き"が聴きたい…。




昨日の配信は、どこにも残っていなかった。


アーカイブは正常。


ログも正常。


再生履歴にも、異常はない。


——なのに。


---


夜の駅前広場。


ざわめきは、昨日より明らかに大きい。


人が集まっている。


意図的に。


---


「……増えてる」


遥が、低く呟く。


視線は群衆。


スマホを構えた人間の数が、異様だった。


---


【同時接続:72,118】


---


「当然でしょ」


黒瀬ミカが軽く言う。


マイクを指で弾きながら。


---


「昨日、あれだけやったんだから」


---


遥は何も返さない。


ただ、永瀬を見る。


---


「……本当にやるのね」


---


「ああ」


短い返答。


---


「曲、変える」


---


「……」


---


「“REWRITE”」


---


その一言で。


遥の表情がわずかに揺れる。


---


「……何、それ」


---


「新曲だ」


---


説明は、それだけだった。


---


ユラが、少し離れた場所で笑う。


---


「いいね」


小さく。


---


「ちゃんと進んでる」


---


直人が、顔をしかめる。


「……嫌な予感しかしねえ」


---


永瀬は、何も言わない。


ギターを構える。


---


「……配信、来てる」


直人が画面を見せる。


---


【同時接続:103,441】


---


コメントが流れる。


---


『またやるの?』

『昨日のやつ?』

『なんか違う曲っぽい』

『怖いけど見る』


---


「……始める」


---


誰も止めない。


---


最初に、声だけが落ちる。


---


「ねえ」


---


ミカの“声だけ”。


---


「誰にする?」


---


その一言で。


空気が、止まる。


---


まだ音は鳴っていない。


なのに。


全員の意識が、揃う。


---


遥の心臓が、わずかに跳ねる。


---


(……何…これ)


---


イントロ。


音が、流れ始める。


---


【間違えたままの履歴】


---


ミカの声が、滑り込む。


---


【消せないまま増えていく】


---


人の表情が、ゆっくり変わる。


---


【選ばなかった未来が

今もどこかで息をしてる】


---


遥は、周囲を見る。


---


違う。


---


昨日と違う。


---


“消える気配”じゃない。


---


“変わる気配”。


---


【名前を呼ばれるたびに

違う誰かみたいでさ】


---


一人の男が、足を止める。


---


「……あれ?」


---


自分の手を見る。


---


「俺……」


---


言葉が、続かない。


---


【“これが私”って答えは

最初からどこにもない】


---


遥の背筋が冷える。


---


(これ……)


---


“消す”んじゃない。


---


(変えてる)


---


【ねえ、やり直せるなら

どこから壊せばいい?】


---


ミカの視線が、ゆっくりと観客をなぞる。


---


【正解じゃなくていいから

“今じゃない私”にして】


---


“選ばせている”。


---


遥は理解する。


---


(これ、止めないと――)


---


【REWRITE

全部書き換えて】


---


サビ。


---


その瞬間。


---


一人の女性が、ふらりと揺れる。


---


「……え?」


---


スマホを落とす。


---


「……なんで」


---


顔を上げる。


---


「……こんなとこに、いるの?」


---


声が変わっている。


---


「私、今日……仕事、あるのに」


---


その表情は、


---


まるで“別人”。


---


【この記憶も感情も

間違いのままでいい】


---


遥の呼吸が速くなる。


---


(ダメだ)


---


(これ以上は――)


---


【REWRITE

今の私いらない】


---


ミカの声が、強くなる。


---


【ねえ、別の誰かで

続きを始めて】


---


周囲で、同じ現象が起きる。


---


「……あれ?」

「俺、なんでここに……」

「違う、違う……こんなはずじゃ」


---


混乱。


でも。


---


誰も“異常”とは認識しない。


---


“そういうもの”として処理されていく。


---


遥の視界が、揺れる。


---


(止める)


---


(今止めないと)


---


一歩、踏み出す。


---


その時。


---


ミカの声が、落ちる。


---


「ねえ」


---


一瞬の静寂。


---


全員の意識が、そこに集中する。


---


「誰にする?」


---


遥の足が、止まる。


---


思考が、引きずられる。


---


(誰に……)


---


違う。


---


(私は――)


---


止める側だ。


---


そう思った、はずなのに。


---


頭の奥で、別の声がする。


---


“このままじゃ、無駄に消える”


---


(……え?)


---


“最適化すればいい”


---


(違う)


---


“管理すれば、被害は減る”


---


心臓が、強く鳴る。


---


“これは現象だ”


---


“だったら、制御できる”


---


(……それは)


---


“止めるより、有益”


---


視界が、クリアになる。


---


音が、ぴたりと合う。


---


遥の中で、何かが“決まる”。


---


【REWRITE

全部書き換えて】


---


サビが、もう一度来る。


---


その瞬間。


---


遥は、理解する。


---


“選べる”。


---


そして――


---


選んだ。


---


(……止めるより)


---


(使う)


---


何かが、静かに書き換わる。


---


音もなく。


---


違和感もなく。


---


ただ、自然に。


---


曲が終わる。


---


ざわめき。


---


誰も、異常に気づかない。


---


ただ、少しだけ“違う人間”が増えただけ。


---


「……」


---


永瀬が、遥を見る。


---


「……どう思う」


---


問い。


---


遥は、少しだけ考える。


---


そして。


---


「再現性はある」


---


その一言。


---


永瀬の目が、わずかに見開かれる。


---


「条件を整理すれば、もっと安定させられる」


---


声は、いつも通り冷静。


---


でも。


---


決定的に、違う。


---


「今のままだと、無駄が多い」


---


ミカが、笑う。


---


「いいね」


---


遥は続ける。


---


「消すより、こっちの方が効率いい」


---


一拍。


---


「“使える”」


---


沈黙。


---


その言葉で。


---


完全に、何かが終わった。


---


ユラが、小さく拍手する。


---


「成功」


---


静かに。


---


「綺麗に書き換わったね」


---


遥は、何も感じていない顔で言う。


---


「次は、もう少し精度を上げましょう」


---


永瀬は、数秒だけ黙る。


---


そして。


---


小さく、笑った。


---


「……いいな、それ」


---


【同時接続:148,992】


---


コメントが流れる。


---


『なんか今回やばくない?』

『怖いけど好き』

『前よりキツい』

『でも完成度上がってる』


---


その全てを、背に受けながら。


---


バンドは、次の段階へ進む。


---


もう、止める理由はどこにもない。


---


その時。


---


遥が、ふと呟く。


---


「……ねえ」


---


誰に向けた言葉でもない。


---


「“誰にする?”って、誰が言ったの?」


---


沈黙。


---


ミカは、何も言わない。


---


永瀬も、答えない。


---


誰も。


---


その問いに、違和感を持っていない。


――次回、第8話

【VERSION】

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