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"ERROR"  作者: 色斑にじみ
6/15

【NOISE】




駅前広場でのLIVE直前。


辺りは、光で満ちていた。


ネオン、看板、街灯。


深夜まで人の流れが絶えない場所。


---


「……本当に、やるのね」


遥がつぶやく。


その横で、永瀬は機材を確認している。


アンプ、ケーブル、インターフェース。


作業の手は迷わない。


むしろ、いつもより正確だった。


---


「配信、もう繋がってるぜ」


直人が言う。


スマホの画面を見せる。


【同時接続:3,482】


リアルタイムでどんどん増えている。


---


「……まだ引き返せる」


遥が言う。


「今なら」


---


「無理だな」


即答だった。


---


「もう、始まってる」


---


遥が言葉を失う。


---


黒瀬ミカが、マイクの前に立つ。


軽く息を吐く。


その瞬間、空気が変わる。


---


「ねえ」


ミカが振り向く。


---


「どこまでやる?」


---


永瀬は、一瞬だけ考える。


---


「1曲だけ」


---


遥が顔を上げる。


---


「それ以上は?」


---


「やらない」


---


「……信じていいの?」


---


一拍。


---


「データを取るだけだ」


---


その言葉で。


遥の顔から、完全に感情が消えた。


---


「……最低」


---


「知ってる」


---


だが、止まらない。


---


【同時接続:8,921】


---


コメントが流れる。


『きた』

『生配信!?』

『例の曲やる?』

『やばい予感する』


---


「いいね」


ミカが笑う。


---


「ちゃんと“集まってる”」


---


ユラは、少し離れた場所でそれを見ている。


無表情。


---


「観測条件、良好」


小さく呟く。


---


永瀬が、ギターを構える。


---


心臓の音が、少しだけ速い。


---


だが。


恐怖じゃない。


---


期待だ。


---


「……いくぞ」


---


最初のコード。


---


その瞬間。


広場のざわめきが、わずかに沈む。


---


誰も気づかないレベル。


でも、確実に。


---


【触れたはずの温度】


---


ミカの声が、流れ込む。


---


【指の隙間でバグってる】


---


人の流れが、少しだけ鈍る。


足が止まる。


---


【呼ばれた名前

振り向いたのは誰だっけ】


---


永瀬の耳が、全てを捉える。


---


音の位置。


人の呼吸。


感情の揺れ。


---


全部、分かる。


---


「……ここか」


小さく呟く。


---


【ログにも残らない声が

喉の奥でループする】


---


一人、足を止める。


二人、三人。


---


“集まる”。


---


“揃う”。


---


“ピークに近づく”。


---


「……まだ足りない」


---


無意識に、ボリュームを上げる。


---


【“ここにいる”って証明は

その時点で意味がない】


---


広場の中心。


人の密度が、上がる。


---


スマホが一斉に向けられる。


---


【同時接続:21,403】


---


「……いい感じ」


ミカが、笑う。


---


【正しさなんていらないよ

今、感じたそれだけで】


---


空気が、引き締まる。


---


永瀬の中で、確信が生まれる。


---


“ここで上げれば、跳ねる”


---


【壊れていく順番を

選べるならいいじゃない?】


---


「……もう少し」


---


指が、意図的に動く。


---


音を“寄せる”。


---


感情のピークへ。


---


遥が叫ぶ。


「もうやめて!」


---


聞こえている。


でも。


---


「まだだ」


---


【ERROR ERROR

私はここにいない】


---


サビ。


---


その瞬間。


---


“世界が、割れた”。


---


音が、一瞬遅れる。


光が、ズレる。


---


人の輪郭が、揺らぐ。


---


「……っ!」


誰かが声を上げる。


---


一人、消える。


---


二人、消える。


---


三人。


---


“連鎖”。


---


「……はは」


小さく、笑いが漏れる。


---


止まらない。


---


【名前を呼ぶたびに

形がズレてく】


---


永瀬の指が、さらに動く。


---


「ここだ」


---


音を、強くする。


---


“意図して”。


---


【ERROR ERROR

消えていくほうが正しい】


---


さらに、消える。


---


「……智樹!!」


遥の声。


---


でも。


---


【ねえ、その一秒だけ

永遠にして】


---


終わる。


---


静寂。


---


広場。


---


人が、減っている。


---


明らかに。


---


でも。


---


誰も、気づいていない。


---


「……成功だ」


---


その言葉は。


あまりにも、軽かった。


---


【同時接続:58,902】


【再生数:2,184,331】


---


コメントが爆発する。


---


『やばい』

『今の何?』

『人いなくなった?』

『気のせい?』

『でも鳥肌やばい』


---


永瀬は、スマホを見る。


---


数字。


結果。


---


「……再現できた」


---


その瞬間。


はっきりと理解する。


---


“これは、制御できる”


---


背後で。


---


ミカが、囁く。


---


「ねえ」


---


振り向く。


---


「もっとやろうよ」


---


その目は、完全に同じだった。


---


壊す側の目。


---


ユラが、静かに言う。


---


「いい感じ」


---


「もう、“音”じゃなくなってきたね」


---


「ちゃんと“現象”になってる」


---


遥は、その場に立ち尽くす。


---


「……これ」


震える声。


---


「もう、止まらない」


---


誰も否定しない。


---


永瀬は、ただ一言。


---


「次は」


---


少しだけ笑った。


---


「もっと綺麗に消せる」


---


その言葉で。


---


完全に、壊れた。


---


次の瞬間。


その発言自体が、どこにも残っていなかった。


ログにも。


録音にも。


配信のアーカイブにも。


まるで最初から、

“言っていないこと”になったみたいに。


「……今、なんて言った?」


誰の声だったのか分からない。


ただ。


画面の向こうで。


コメントが、一斉に流れる。


 『今の何?』

 『消えた?』

 『聞こえたよな?』


永瀬は、何も答えない。


ただ。


確信だけが残っている。


――“これは、消しているんじゃない”


再生は続いている。


なのに。


“違う何か”が、混ざり始めている。


その時。


イヤホンの奥で。


誰かが、はっきりと囁いた。


「ねえ」


……それは。


さっきまで、存在していなかった声だった。


――次回、第7話

【REWRITE】

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