【DESYNC】
「……もう一回やる」
永瀬は、スマホの画面を見たまま言った。
静かな声だった。
だが、その意思はもう完全に揺るがない。
---
「……は?」
遥の声が、低くなる。
「何言ってるか分かってる?」
「分かってるさ」
即答だった。
「確かめる必要がある」
---
コンビニの床。
落ちたままのスマホ。
再生は止まっている。
だが、画面にはまだ残っている。
【再生数:1,204,883】
---
「彼女が消えたのは、サビの入り」
永瀬は続ける。
「Aメロじゃない。Bメロでもない」
淡々と。
「“ピーク”だ」
---
遥が一歩詰め寄る。
「それを確認するために、もう一回やるって言ってるの?」
「……ああ」
---
沈黙。
---
「ふざけないで」
低い声。
今までで一番冷たい。
「人が消えてるのよ?」
---
「……」
---
「実験とか、そういう話じゃないでしょ」
---
「実験だよ」
被せるように言う。
---
遥の動きが止まる。
---
「構造があるなら、再現できる」
永瀬の目は、もう迷っていなかった。
「再現できるなら、制御できる」
---
「制御?」
遥の声が震える。
「人を消しておいて?」
---
「……」
一瞬だけ、間が空く。
---
「だから、分かる必要がある」
---
その言葉で完全に、線が引かれた。
---
「……最低」
遥が呟く。
---
「知ってる」
---
視線を逸らさない。
---
「俺たちにしかできない事だ」
---
背後で、笑い声。
---
「いいね」
黒瀬ミカだった。
壁にもたれて、楽しそうに見ている。
---
「ちゃんと分かってきたじゃん」
---
「……ミカ」
遥が睨む。
「止めなさい」
---
「なんで?」
軽い声。
---
「だって、面白いじゃん」
---
「……!」
---
ミカは、スマホを拾い上げる。
画面を見て、少しだけ首を傾げる。
---
「ねえ」
永瀬に向ける。
「どこでやる?」
---
「……場所は変える」
即答だった。
---
遥が顔を上げる。
---
「同じ場所だと、ノイズが入る」
---
「ノイズ……?」
---
「さっきの残響が残ってる可能性がある」
淡々と分析する。
---
「だから、別の場所で」
---
「……本気で言ってるの」
---
「本気だよ」
---
その時。
小さな声。
---
「いい場所、あるよ」
---
ユラだった。
いつの間にか、すぐ近くにいる。
---
「人、多いとこ」
---
遥が振り向く。
「あなた……」
---
ユラは気にしない。
ただ、永瀬を見る。
---
「観測するなら、その方がいいでしょ?」
---
「データ、いっぱい取れるし」
---
その言葉に。
永瀬の指が、わずかに動く。
---
「……どこだ」
---
遥が息を呑む。
---
「ダメ」
即座に言う。
「それ以上やったら、本当に――」
---
「駅前広場」
ユラが被せる。
---
「人、たくさんいる」
---
「……!」
---
「配信も映えるし」
ミカが笑う。
---
「ちょっと待って!」
遥が叫ぶ。
---
「それ、もうテロでしょ!」
---
「違うよ」
永瀬が言う。
---
静かに。
---
「これは音楽だ」
---
沈黙。
---
その言葉が、一番危険だった。
---
【再生数:1,387,550】
---
スマホの通知が鳴り続ける。
---
『ライブやらないの?』
『次いつ?』
『生で聴きたい』
『配信して』
---
求められている。
もっと。
---
「……やるなら」
直人が口を開く。
---
全員の視線が向く。
---
「俺も行く」
---
「直人!?」
遥が叫ぶ。
---
「止めてよ!」
---
「止まんねえだろ、もう」
苦い顔で言う。
---
「だったら、せめて見てる」
---
「……」
---
永瀬は、ゆっくり頷く。
---
「決まりだ」
---
遥が、その場に立ち尽くす。
---
「……本気で、やるのね」
---
誰も否定しない。
---
数秒の沈黙。
---
そして。
---
「……分かった」
遥が言う。
---
顔を上げる。
その目は、もう揺れていない。
---
「じゃあ、私も行く」
---
「……は?」
---
「止めるために」
---
一歩前に出る。
---
「最後まで」
---
その言葉に。
ミカが笑う。
---
「いいね」
---
ユラも、わずかに目を細める。
---
「じゃあ」
小さく呟く。
---
「次は、どれくらい消えるかな」
---
動き始めた運命は、誰にも止められない。
---
物語は、次の段階へ進む。
---
――次回、第6話
【NOISE】




