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"ERROR"  作者: 色斑にじみ
4/15

【TRACE】




再生された瞬間。


音は、まだ鳴っていなかった。


それでも――


“何か”が、先に動いた。


---


コンビニの照明が、一拍遅れて点灯する。


蛍光灯の白が、わずかにズレる。


時間が、噛み合っていない。


---


「……っ」


永瀬の呼吸が浅くなる。


分かる。


これはもう、“曲の中”だ。


---


ひなのスマホから、音が漏れ出す。


微かに。


でも確実に。


---


【触れたはずの温度】


---


その一行で。


空気が、沈む。


---


「……ねえ」


ひなが、ぽつりと呟く。


視線は画面のまま。


「やっぱりこれ……好きです」


その声は、さっきよりも軽かった。


何かが削れている。


確実に。


---


外から音が消える。


車の音も、人の声も。


全部、一瞬で遠ざかる。


---


【指の隙間でバグってる】


---


永瀬は、無意識に一歩下がる。


景色が、わずかに歪んでいる。


直線が、直線じゃない。


遠近感が、合っていない。


---


「……止めろ」


言葉が、遅い。


---


【呼ばれた名前

振り向いたのは誰だっけ】


---


ひなが、笑う。


「ねえ」


その目は、もう焦点が合っていない。


「私、ちゃんと“ここにいます”よね?」


---


答えられない。


---


【ログにも残らない声が

喉の奥でループする】


---


コンビニの棚。


商品が、一列だけ消える。


空白。


ラベルだけが残っている。


---


「……おい」


声が震える。


---


【“ここにいる”って証明は

その時点で意味がない】


---


ひなが、スマホを胸に抱く。


大事なものみたいに。


「でも、この曲があるから」


ゆっくりと言う。


「私、消えてもいい気がする」


---


その言葉で。


何かが、完全に“揃った”。


---


【正しさなんていらないよ

今、感じたそれだけで】


---


永瀬の耳が、音を正確に捉える。


分かってしまう。


どこで“跳ねる”か。


どこで“崩れる”か。


---


【壊れていく順番を

選べるならいいじゃない?】


---


選んでいる。


無意識に。


今、この瞬間も。


---


「……智樹!」


遥の声が、外から響く。


ドアが開く。


だが。


その動きが、遅い。


世界とズレている。


---


【ERROR ERROR

私はここにいない】


---


サビに入る。


同時に。


“現実”が、崩れた。


---


音が消える。


一瞬だけ、完全な無音。


---


次の瞬間。


ひなが、いなかった。


---


そこにあったはずの空間が、


“最初から何もなかったみたいに”繋がっている。


---


スマホだけが、床に落ちている。


再生は続いている。


---


【名前を呼ぶたびに

形がズレてく】


---


「……は?」


声が、出ない。


理解が、追いつかない。


---


遥が、ドアの前で立ち尽くしている。


「……今の、見た?」


震える声。


---


永瀬は、動けない。


ただ、床のスマホを見る。


---


【ERROR ERROR

消えていくほうが正しい】


---


画面には、再生中の波形。


そして。


コメントが流れ続けている。


---


『やばい』

『鳥肌止まらん』

『なんか、涙出てきた』

『これ聴いてると消えたくなる』


---


再生数。


【812,443】


---


【ねえ、その一秒だけ

永遠にして】


---


曲が、終わる。


---


静寂。


---


そして。


外の音が、一斉に戻る。


車の音。


人の声。


何事もなかったみたいに。


---


「……?」


遥が、周囲を見回す。


「……あの娘は!?」


誰も反応しない。


近くにいたはずの客も、店員も。


“そんな人は最初からいなかった”顔をしている。


---


「……なんで」


遥の声が震える。


「なんで、あんた……止めなかったの」


---


永瀬は、答えない。


答えられない。


---


視線は、スマホに固定されたまま。


---


【再生数:903,221】


---


あと少しで、100万。


---


「……今の」


ぽつりと呟く。


「サビの入りだ」


---


遥が、顔を上げる。


「……は?」


---


「あの娘が消えたの」


淡々と、言う。


「サビに入った瞬間だ」


---


「……何言ってんの」


---


「構造がある」


目の表情が、完全に変わっていた。


恐怖でも、後悔でもない。


---


「この曲」


静かに続ける。


「どこで壊れるか、決まってる」


---


遥が一歩下がる。


理解してしまう。


この男は――


---


「……次は」


永瀬が言う。


---


【再生数:1,002,118】


---


画面が、切り替わる。


---


「もっといける」


---


ミカの声が、後ろから重なる。


「ね?」


---


振り向く。


ミカは、笑っていた。


---


「最高じゃん」


---


ユラが、少し離れた場所でそれを見ている。


無機質な目。


---


「ほら」


小さく呟く。


---


「言ったでしょ」


---


「もう、戻れないって」


---


――次回、第5話

【DESYNC】

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