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"ERROR"  作者: 色斑にじみ
3/15

【GLITCH】




朝、世界は何もなかったみたいな顔をしていた。


テレビはいつも通りのニュースを流し、

SNSは昨夜の話題で溢れている。


――ただひとつを除いて。


ロックバンド「404 NOT FOUND」

新曲「ERROR」


その二文字が、トレンドの最上位にあった。


---


永瀬は、コンビニの前で立ち止まる。


スマホの画面。


【再生数:612,334】


一晩でここまで来ていた。


「……おかしいだろ」


誰に言うでもなく呟く。


普通じゃない。


だが、それ以上に――


“気持ちいい”。


ここまで来たことがない。


この数字が、全部を肯定してくる。


---


店内に入る。


レジ前の雑誌コーナー。


その前で、ひとりの少女が立ち尽くしていた。


制服姿。眠そうな目。


南條ひな。


雑誌の表紙を見たまま、動かない。


「……?」


違和感。


視線が、ズレている。


「おい」


声をかける。


ひなが、ゆっくり振り向いた。


「あ……」


焦点が合うまで、一瞬遅れる。


「すみません……えっと……」


言葉を探すように、目が泳ぐ。


「今、何してた?」


「え……?」


ひなは、雑誌を見下ろす。


「……分かんないです」


空気が、少しだけ冷える。


「気づいたら、ここに立ってて」


「……」


「なんか、忘れてる気がするんですけど」


無理に笑う。


その笑いが、薄い。


「思い出せなくて」


永瀬の視線が、彼女の手元に落ちる。


スマホ。


画面には、動画が開かれていた。


【ERROR】


再生ボタンは、何度も押された跡がある。


---


「それ、何回見た?」


「え?」


「この動画」


ひなは首を傾げる。


「……分かんないです」


まただ。


“分からない”。


「でも」


少しだけ、表情が変わる。


「これ、すごい好きです」


はっきりと、言った。


「なんか……ちゃんと“ここにいる”感じがする」


背筋が、ぞわりとする。


---


「……帰れ」


思わず言っていた。


「え?」


「今日はもう、見るな」


「なんでですか?」


純粋な目。


疑いがない。


「いいから」


少し強めに言う。


ひなは戸惑いながらも、頷いた。


「……はい」


でも、帰ろうとしない。


「どうした」


「……」


少しだけ、間があって。


「家、どこだったか忘れちゃって」


言った。


何気ない顔で。


---


その瞬間。


“現実”が、はっきりと歪んだ。


---


「……は?」


声が漏れる。


ひなは困ったように笑う。


「なんか変ですよね」


軽い口調。


でも、その中身は致命的だった。


---


ポケットの中でスマホが震える。


遥からの着信。


「……もしもし」


『智樹、今どこ』


声が硬い。


「コンビニ。駅前の」


『そこ、動かないで』


即答だった。


『今、向かってる』


「何があった」


一瞬の沈黙。


そして――


『消えてる』


短い言葉。


「何が」


『“場所”が』


理解が追いつかない。


「は?」


『地図アプリ開いて』


言われるまま、操作する。


現在地を表示。


その周辺――


空白がある。


ビルがあったはずの場所。


飲食店が並んでいた通り。


そこだけ、データが抜け落ちている。


「……なんだこれ」


『現実でも同じ』


遥の声が震えている。


『今、現地にいるけど――何もない』


---


視線を上げる。


コンビニの外。


確かにあったはずの景色が、


“抜けている”。


歯が抜けたみたいに。


不自然な空間。


人々は普通に歩いている。


誰も気にしていない。


---


「……気づいてないのか?」


『誰も』


即答。


『“最初から無かった”ってことにされてる』


---


ひなの声が後ろからする。


「ねえ」


振り向く。


彼女はスマホを見ている。


再生画面。


まただ。


「これ、もっと聴いてもいいですか?」


やめろ、と言いかけて。


止まる。


その目。


完全に、引き込まれている。


---


【再生数:701,992】


数字が跳ねる。


このままいけば――


もっといく。


もっと壊れる。


でも。


もっと“上に行ける”。


---


「……智樹?」


電話越しの遥。


「これ以上はダメ」


はっきりとした声。


「止めないと、本当に取り返しつかなくなる」


---


ミカの声が、頭の中で重なる。


「これ、もっといけるよ」


---


ひなが、再生ボタンに指をかける。


---


「……待て」


声が出る。


自分でも分からない。


止めたいのか。


進みたいのか。


---


その時。


背後に、気配。


振り向く。


あの少女。


無機質な目。


ユラ。


いつの間にか、すぐ後ろに立っている。


---


「ねえ」


静かな声。


「どっち選ぶの?」


---


スマホの画面。


再生ボタン。


震える指。


---


ユラが、続ける。


「止めるなら、ここが最後だよ」


一拍。


「進むなら――」


少しだけ笑った。


「もう戻れない」


---


【再生数:745,120】


数字が、跳ねる。


---


ひなが、言う。


「……再生、しますね」


---


永瀬の喉が、鳴る。


---


「……やめろ」


そう言いながら。


目は、画面から離れない。


---


指が、落ちる。


---


再生。


---


その瞬間。


コンビニの照明が、わずかに“遅れた”。


---


――次回、第4話

【TRACE】

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