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絶望から救った彼女たちに甘やかされても、Nレアギフトじゃ異世界そんなに甘くない!  作者: 水華奈
本編

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5話_幼馴染と獣耳


 同族の核を無理やり喰わせ続けて作り出した、凶悪な『赤色』のスライム。

 その猛毒を『濾過(ろか)』する際の激痛すらも、すっかり克服してしまった今日この頃。

 五歳になった俺は、村の広場で同年代の子供たちと鬼ごっこに興じていた。



「エイル、待ってよー! もう、本当に足速いんだから!」



 息を切らして追いかけてくるのは、一つ年下の幼馴染の少女、ミアだ。

 村長の一人娘で、俺を実の兄のように慕ってくれる、妹のような存在である。



「へへっ、ミアが遅いだけだよ!」



 俺は子供らしい無邪気な笑顔で振り返りながら、余裕でペースを合わせる。

 俺の足が速いのには、明確な理由がある。

 筋肉に溜まる疲労物質を『濾過(ろか)』で強引に消し去り、日頃からトレーニングをしているからだ。


 ただし、限界を超えたことによる筋繊維の「物理的な損傷」は取り除くことはできない。

 そのため、脳がストッパーをかけるのではなく、自分自身で限界を見極め、適切なところでブレーキをかけるほかない。


 うーん、やっぱり、N(ノーマル)レアでは、使い勝手が尖りすぎている……。



「あ、こんなところにいた!」



 広場の隅にある木陰で俺が適当に休憩していると、息を切らしたミアが駆け寄ってきた。

 ぷくっと頬を膨らませながら、俺の顔をジッと覗き込んでくる。



「また森の近くまで走ってたでしょ? ほら、ほっぺたに泥がついてる!」


「え? ああ、ほんとだ」


「もう、そのまま帰ったらエイルのお母さんに怒られちゃうよ? じっとしてて」



 ミアは自分の小さなハンカチを取り出すと、背伸びをして俺の頬の泥をゴシゴシと拭き取ってくれた。

 ちょっと力が強くて痛い。

 おまけにさっき、彼女が首元の汗を拭いたせいでハンカチが微妙に湿っており、泥が綺麗に拭き取れるどころか顔全体に薄く引き伸ばされている気がする。

 色々と指摘しづらいが、ここで文句を言うのは野暮というものだろう。

 世話焼きなところもいかにも彼女らしい。



「……よし、綺麗になった! はい、これ!」



 満足げに頷いたミアは、隠し持っていた白く可憐な花で作った花冠を、俺の頭にポンと乗せた。



「あんまり遠くに行っちゃダメだからね。エイルの迷子防止の目印なんだから!」



 その微笑ましい仕草は、村の大人たちが「将来は村一番の美人になる」と太鼓判を押すだけの愛嬌に溢れていた。

 うん、うちの妹系幼馴染は今日も可愛い。


 ミアと別れ、俺が家に帰ると、ちょうど父ガルドが泥だらけで農作業から帰ってきたところだった。



「おうエイル、今帰ったぞ――」


「ちょっとあなた! その泥だらけの足で家に上がらないで! 先に家の前の水桶で洗ってきて頂戴!」


「お、おう……すまん、ミーナ」



 岩をそのまま削り出したような分厚い胸板と乾燥した丸太のような腕を持つ、綺麗に剃り上げられたスキンヘッドの逞しい父が、母ミーナの一喝でシュンと肩を落として外へ引き返していく。そう、我が家の絶対権力者は間違いなく母なのだ。

 俺は哀愁漂う父の大きな背中を見送りつつ、母に声をかけた。



「ちょっと、村の柵の周りを走ってくる!」


「はいはい。夕飯までにはちゃんと帰ってくるのよ? にしても、あなたのその底なしの体力……一体誰に似たのかしらね」


「お母さんの美味しいご飯を、世界で一番たくさん食べるためだよ!」



 絶対権力者への生存戦略(忖度)が完璧に計算された、あざとさ全開の百点満点の笑顔。俺が元気よく家を飛び出すと、背後から「調子のいいこと言って。はいはい、気を付けてね」と、すっかり毒気を抜かれた母の笑い声が聞こえた。


 ……と言いつつ、目指すのは村から数十キロ離れた危険地帯なんだけどな。

 そんなツッコミを内心で入れつつ、俺は村を出た。


 目指すのは、村の安全な森を抜けた先にある岩山――そこにある『大崖(おおがけ)』だ。

 なぜ慎重派で魔物を恐れる俺が、わざわざそんな危険地帯の近くまで足を運ぶのか。

 理由は単純だ。


 俺は、猛毒を帯びた赤色スライムの『魔石の核』の処理に苦しんでいた。そこで、村に被害が及ばないよう、遠く離れたこの大崖の下へ葬ることにしたのだ。

 それに、俺の身勝手な修行の犠牲になったスライムたちへの、せめてもの供養のつもりでもあった。

 そして、粉々に砕いてこの崖の上から広く撒いておけば、スライムの時のように他の個体に核を取り込まれる心配もないだろう。

 俺は、安全な崖の上からせっせと魔石の核の残骸を撒いていた。




    ◇




 その頃、岩山の荒野では、腐臭を伴う瘴気が立ち込める中、そのしなやかな体躯を活かし、鋭く研ぎ澄まされた双剣を構えたS級冒険者の金狼族の少女、アルミナが、全長十メートルを超える巨大な飛竜――『腐毒竜』と死闘を繰り広げていた。


  希少な金狼族の少女、アルミナ。

 獣人は過酷な自然界を生き抜くため、実際の獣と同じように五歳を迎える頃には急激に身体が成長し、大人の戦士としての体格が完成する。

 彼女も九歳にして、すでに単独で高難易度の依頼をこなす凄腕の冒険者だった。


 腐毒竜の巨体が荒野を無惨に削り飛ばす中、風に舞う黄金の髪の隙間から覗く凛とした頬を、額から流れる汗が伝っていく。



「……しぶといわね。流石は山の主、といったところかしら」



 巨竜の猛攻を躱し、その体力を着実に削り落としながら、彼女は静かに呟く。その瞳には、S級冒険者としての誇りと覚悟が宿っていた。


 そもそも、この岩山に腐毒竜がいること自体が異常事態であるが、この凶悪な怪物は、元々は岩山の崖下に棲むただの岩竜に過ぎなかった。


 ある少年が一年以上もの間、崖の上から「赤色スライムの魔石の核」という劇薬の残骸を無邪気に撒き続けた結果、無意識に吸収してしまったことで後天的に変異し、苦しみから逃れるように崖上へ這い上がってきた哀れな被害者である。

 もっとも、この悲劇の元凶である少年は、自分がそんな規格外の怪物を生み出してしまったことなど、知る由もない。


 やがて、彼女の放った渾身の一撃が竜の急所を貫き、巨大な体が事切れて倒れた。

 だが、無傷とはいかなかった。


 崩れ落ちる巨体――それが油断を誘う罠だった。死の淵にある腐毒竜は最後の力を振り絞り、完全に死角となるところから、猛毒の棘をびっしりと生やした極太の尾を弾丸のように薙ぎ払ってきたのだ。


 風を裂く暴音を金狼族の超感覚で察知した彼女は、首を刎ねられる寸前で神速の回避を見せた。

 だが、神速の回避をもってしても完全には躱しきれず、金色の獣耳の先を、無情にも尾が掠めてしまった。


 そこから入り込んだ致死性の腐毒が、傷口を中心に彼女の体を蝕み始める。


 膝から崩れ落ちた誇り高き戦士は、焼け付くような傷の激痛から自身の死を悟り、「……これも、私の運命ね」と、静かな微笑みを浮かべて目を閉じた。


 だが、その死の静寂を、無遠慮な足音が踏みにじる。

 ガサリ、とすぐ横の森の茂みが揺れ。場違いすぎる五歳児が姿を現した。


 人間の、小さな子……? どうして、こんな危険な場所に……。


 アルミナが驚愕に目を見開く中、その幼児は、倒れた巨大な竜の死骸など一切気にする様子もなく、一直線に彼女のもとへと走り寄ってきた。




本話より着々と登場させていく予定です。次の話を書き上げるためのエネルギーを、評価ボタンやブックマーク等でどうか恵んでください(*◡ ◡)⁾⁾⁾

どうぞよろしくお願いします。

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